アユカワ・コト誕生日記念SS
- 2020/11/11
- 23:59
「コト、お誕生日おめでとう」
「おお~ありがと~にーさん」
いつもの調子でお礼を言うコトにプレゼントを手渡す。
「んん~?
なんか細長いね。
中身は何かな?
開けていい?」
俺は首肯する。
今日はコトの誕生日、俺がプレゼントした物は・・・・・・
「センセ―、もうすぐコトの誕生日だよね。
何渡すか決めた?」
廊下で会ったヴァレリアが聞いてきたので答える。
「コトが使ってる箸がところどころ色が落ち始めてたから箸を送ろうと思ってる」
「ああ~箸ね~
あれの使い方覚えるの大変だった~
実は実家にいた時の家庭教師の人がトミクニ出身だったんだ。
その先生に箸の使い方を教えてもらって、超苦労した末に覚えられたんだよね~」
「トミクニ出身の家庭教師?」
「うん。
お爺ちゃんの知り合いの人の従者で、そのお爺ちゃんの知り合いの人と共に世界を旅してる最中だったみたい。
それでうちに来た時にその家庭教師の人とも知り合って、
気が付いたらあたしの家庭教師をしてくれることになってたんだよね。
当時のあたしは幼かったのと殆ど人に会った事なかったから特に何も感じなかったけど、
今思うと黒髪ロングの凄い美人だった。
あのベア先生に勝るとも劣らないレベル!」
ベアと同等となると確かにものすごい美人だ。
「あ、お爺ちゃんの知り合いの人も凄い美人だったよ。
背は小さいんだけど、お爺ちゃんみたいに威厳が溢れ出てた。
すっごく綺麗な金髪で和服を着てたな~
二人が並んで町を歩いてると超注目されるの間違いなし!みたいな」
ヴァレリアが当時を懐かしむ。
「勉強から作法まで色々教わったのだけど、
特に凄かったのが数学で今のあたしでも解けないような超複雑な計算式も一瞬で解いちゃって、
当時のあたしがこれが魔法なんだって勘違いしそうになるような人だったな~」
ヴァレリアが当時の事を思い出しながら言う。
「まあそれは置いておいてあたしは何渡せばいいかな?」
「気持ちが籠っていれば何でもいいような気がする」
「う~ん気持ちか・・・・・・あ」
ヴァレリアが何か気が付いたようだ。
「センセ―箸渡すんだよね?」
「ああ」
「よし!じゃああたしはあれにしよっと!
ちょっとラウラに売ってるか聞いてくる~」
そういうとヴァレリアはラウラ雑貨店目指して走っていった。
数日後。
「ヴァレリア、ちょっとよろしいですか?」
ナジャがヴァレリアを呼び止める。
「なぁに?ナジャ先生」
「ちょっと試作用のゴーレムを作ったので性能テストに協力してもらえませんか?
手伝っていただけるのであればお礼に学食パフェをごちそうしますよ」
「ええ!パフェおごってくれるの!?
するする~」
「クスクスありがとうございます。
では鍛錬場に向かいましょう」
俺も気になったのでその様子を見に行くことにした。
「あれ、にーさん?
どこか行くの?」
鍛錬場に向かう途中コトに声をかけられた。
今からナジャが作ったゴーレムとヴァレリアが模擬戦を行う事を伝える俺。
「・・・・・・ワタシも見に行く」
俺は首肯するとコトと一緒に鍛錬場に歩いていった。
観戦室に入る俺とコト。
俺たちが観戦室に入ったタイミングで鍛錬場の入り口からゴーレムが3体入ってくる。
どうやらすぐ始めるようだ。
「では早速ですが始めましょう。
ゴーレムは壊してしまって問題ありませんので思いっきりやって下さい」
ナジャがそう言うとゴーレムが動き出した。
それぞれ種類が異なるようだ。
しかし・・・・・・
ドドーン!!
3体のゴーレムが倒れ騒音が巻き起こる。
「へっへ~これくらいなら今のあたしの敵じゃないよ!
なぁ~んてって油断してるところを・・・・・・」
そう言うとヴァレリアは振り向く。
そこにはもう1体のゴーレムが鍛錬場の出口から飛行しながらヴァレリア目掛けて飛んできていた。
その突撃をひらりと躱し、ペンデュラムで攻撃する。
見事撃破した。
「お見事です。
最後まで油断せずに対処しましたね」
「そりゃあね。
あたしも伊達に2年間ここに通ってないよ。
それに・・・・・・
ナジャ先生から最後まで油断しちゃいけないって教わってるから」
ヴァレリアの返答を聞いて満足気なナジャ。
「それでは片付けをして終わったら約束通り学食に行きましょうか」
「は~い!」
片付けと掃除をした彼らはヴァレリアの明るい声と共に鍛錬場を出て行った。
その様子を見たコトは目を閉じながら笑っていた。
そして誕生日当日に戻る。
「おお~箸だ~
そろそろ買い替えようかなって思ってたんだよね。
ありがと、にーさん」
「どういたしまして」
そしてヴァレリアが前に出る。
「コト、誕生日おめでとう!
あたしからはこれ」
ヴァレリアが手渡した箱は小さかった。
そのサイズは俺はもちろん、コト達アイリスの小さい手でも包み込むことができるくらいに。
「なんだろう。
開けていい?」
「うん」
ヴァレリアに許可を貰い箱を開けるコト。
「これは・・・・・・箸置き?」
「うん。
コト、あたしずっと言いたかったことがあったんだ」
「ん~?」
「あの時・・・・・・
前にコトの故郷のトミクニに行った時助けてくれて本当にありがとう。
あの時コトがいなかったら、重症かあるいは今ここにいなかったかもしれない」
ヴァレリアが深々と頭を下げる。
「・・・・・・」
「あたし実は知ってるんだ。
コトが戦闘中あたしを気にかけてくれてるって」
「・・・・・・!」
「コトの昔話を聞いて、あたし自身にもあんなことがあって、コトが気にかけてくれているのは嬉しいけど、その分コトの重荷になってしまってる自分が情けないって思ってた」
「そんなこと・・・・・・」
「こないだナジャ先生との模擬戦、見てくれてたんだよね。
もし何かあったらすぐ駆けつけらるように。
でも見てくれたならわかってくれたと思う。
あたしがあの頃のあたしとは違うってこと。
あたしはコトと対等の存在になりたい。
コトに気を使われるんじゃなく、頼りにしてもらえるような存在になりたい。
お爺ちゃんの知り合いのトミクニの人に聞いたんだ。
箸置きって最初に箸が置かれていて、
食事が終わった後、また箸が置かれるものなんでしょ。
それであたし思ったの。
コトへのプレゼントはこれしかないって。
コトはあたしの初めての親友。
そんな親友と一緒に戦って安心して寄り添えるような存在になることがあたしの目標。
あんな無様はもう二度と見せないこと、この箸置きに誓うよ。
重いって感じたらごめんね。
でも受け取ってほしいな」
「・・・・・・全然重くなんかないよ。
ヴァレリアありがと。
気持ち伝わった。
ヴァレリアがどんなに本気なのかも。
普段の訓練や戦いを通してヴァレリアが成長してるのも、
背中を預けられる信頼できる仲間であることも確かではあったけど、
それでもあの時の事が心のどこかに残っていたんだ。
大丈夫、もうヴァレリアは強い、あんな事にはもうならない。
そう自分に言い聞かせてた。
でもやっぱりそう簡単にはいかなくて、完全には払拭できてなかった。
どうしても姫様を守れなかった事を忘れられなくて、
姫様とヴァレリアは違うのにどこかで重ねてた。
でも・・・・・・もう大丈夫なんだ。
もうあのワタシにならなくていいんだね」
「うん、安心して。
あたしはずっとコトと一緒にいるから。
・・・・・・追いて行っちゃったりしないから」
「うん。
ありがとう」
そうして満面の笑みを浮かべるコト。
その頬には涙が伝っていた。
そんなコトを抱きしめるヴァレリア。
あの時の自分になってしまうことをコトはやはり恐れていた。
だがこうして懸念が消えたことで本当に安心したことがあの涙から伝わってくる。
こうしてヴァレリアがプレゼントした箸置きは、
俺がプレゼントした箸と一緒にずっと使われ続けるのだった。
Fin
「おお~ありがと~にーさん」
いつもの調子でお礼を言うコトにプレゼントを手渡す。
「んん~?
なんか細長いね。
中身は何かな?
開けていい?」
俺は首肯する。
今日はコトの誕生日、俺がプレゼントした物は・・・・・・
「センセ―、もうすぐコトの誕生日だよね。
何渡すか決めた?」
廊下で会ったヴァレリアが聞いてきたので答える。
「コトが使ってる箸がところどころ色が落ち始めてたから箸を送ろうと思ってる」
「ああ~箸ね~
あれの使い方覚えるの大変だった~
実は実家にいた時の家庭教師の人がトミクニ出身だったんだ。
その先生に箸の使い方を教えてもらって、超苦労した末に覚えられたんだよね~」
「トミクニ出身の家庭教師?」
「うん。
お爺ちゃんの知り合いの人の従者で、そのお爺ちゃんの知り合いの人と共に世界を旅してる最中だったみたい。
それでうちに来た時にその家庭教師の人とも知り合って、
気が付いたらあたしの家庭教師をしてくれることになってたんだよね。
当時のあたしは幼かったのと殆ど人に会った事なかったから特に何も感じなかったけど、
今思うと黒髪ロングの凄い美人だった。
あのベア先生に勝るとも劣らないレベル!」
ベアと同等となると確かにものすごい美人だ。
「あ、お爺ちゃんの知り合いの人も凄い美人だったよ。
背は小さいんだけど、お爺ちゃんみたいに威厳が溢れ出てた。
すっごく綺麗な金髪で和服を着てたな~
二人が並んで町を歩いてると超注目されるの間違いなし!みたいな」
ヴァレリアが当時を懐かしむ。
「勉強から作法まで色々教わったのだけど、
特に凄かったのが数学で今のあたしでも解けないような超複雑な計算式も一瞬で解いちゃって、
当時のあたしがこれが魔法なんだって勘違いしそうになるような人だったな~」
ヴァレリアが当時の事を思い出しながら言う。
「まあそれは置いておいてあたしは何渡せばいいかな?」
「気持ちが籠っていれば何でもいいような気がする」
「う~ん気持ちか・・・・・・あ」
ヴァレリアが何か気が付いたようだ。
「センセ―箸渡すんだよね?」
「ああ」
「よし!じゃああたしはあれにしよっと!
ちょっとラウラに売ってるか聞いてくる~」
そういうとヴァレリアはラウラ雑貨店目指して走っていった。
数日後。
「ヴァレリア、ちょっとよろしいですか?」
ナジャがヴァレリアを呼び止める。
「なぁに?ナジャ先生」
「ちょっと試作用のゴーレムを作ったので性能テストに協力してもらえませんか?
手伝っていただけるのであればお礼に学食パフェをごちそうしますよ」
「ええ!パフェおごってくれるの!?
するする~」
「クスクスありがとうございます。
では鍛錬場に向かいましょう」
俺も気になったのでその様子を見に行くことにした。
「あれ、にーさん?
どこか行くの?」
鍛錬場に向かう途中コトに声をかけられた。
今からナジャが作ったゴーレムとヴァレリアが模擬戦を行う事を伝える俺。
「・・・・・・ワタシも見に行く」
俺は首肯するとコトと一緒に鍛錬場に歩いていった。
観戦室に入る俺とコト。
俺たちが観戦室に入ったタイミングで鍛錬場の入り口からゴーレムが3体入ってくる。
どうやらすぐ始めるようだ。
「では早速ですが始めましょう。
ゴーレムは壊してしまって問題ありませんので思いっきりやって下さい」
ナジャがそう言うとゴーレムが動き出した。
それぞれ種類が異なるようだ。
しかし・・・・・・
ドドーン!!
3体のゴーレムが倒れ騒音が巻き起こる。
「へっへ~これくらいなら今のあたしの敵じゃないよ!
なぁ~んてって油断してるところを・・・・・・」
そう言うとヴァレリアは振り向く。
そこにはもう1体のゴーレムが鍛錬場の出口から飛行しながらヴァレリア目掛けて飛んできていた。
その突撃をひらりと躱し、ペンデュラムで攻撃する。
見事撃破した。
「お見事です。
最後まで油断せずに対処しましたね」
「そりゃあね。
あたしも伊達に2年間ここに通ってないよ。
それに・・・・・・
ナジャ先生から最後まで油断しちゃいけないって教わってるから」
ヴァレリアの返答を聞いて満足気なナジャ。
「それでは片付けをして終わったら約束通り学食に行きましょうか」
「は~い!」
片付けと掃除をした彼らはヴァレリアの明るい声と共に鍛錬場を出て行った。
その様子を見たコトは目を閉じながら笑っていた。
そして誕生日当日に戻る。
「おお~箸だ~
そろそろ買い替えようかなって思ってたんだよね。
ありがと、にーさん」
「どういたしまして」
そしてヴァレリアが前に出る。
「コト、誕生日おめでとう!
あたしからはこれ」
ヴァレリアが手渡した箱は小さかった。
そのサイズは俺はもちろん、コト達アイリスの小さい手でも包み込むことができるくらいに。
「なんだろう。
開けていい?」
「うん」
ヴァレリアに許可を貰い箱を開けるコト。
「これは・・・・・・箸置き?」
「うん。
コト、あたしずっと言いたかったことがあったんだ」
「ん~?」
「あの時・・・・・・
前にコトの故郷のトミクニに行った時助けてくれて本当にありがとう。
あの時コトがいなかったら、重症かあるいは今ここにいなかったかもしれない」
ヴァレリアが深々と頭を下げる。
「・・・・・・」
「あたし実は知ってるんだ。
コトが戦闘中あたしを気にかけてくれてるって」
「・・・・・・!」
「コトの昔話を聞いて、あたし自身にもあんなことがあって、コトが気にかけてくれているのは嬉しいけど、その分コトの重荷になってしまってる自分が情けないって思ってた」
「そんなこと・・・・・・」
「こないだナジャ先生との模擬戦、見てくれてたんだよね。
もし何かあったらすぐ駆けつけらるように。
でも見てくれたならわかってくれたと思う。
あたしがあの頃のあたしとは違うってこと。
あたしはコトと対等の存在になりたい。
コトに気を使われるんじゃなく、頼りにしてもらえるような存在になりたい。
お爺ちゃんの知り合いのトミクニの人に聞いたんだ。
箸置きって最初に箸が置かれていて、
食事が終わった後、また箸が置かれるものなんでしょ。
それであたし思ったの。
コトへのプレゼントはこれしかないって。
コトはあたしの初めての親友。
そんな親友と一緒に戦って安心して寄り添えるような存在になることがあたしの目標。
あんな無様はもう二度と見せないこと、この箸置きに誓うよ。
重いって感じたらごめんね。
でも受け取ってほしいな」
「・・・・・・全然重くなんかないよ。
ヴァレリアありがと。
気持ち伝わった。
ヴァレリアがどんなに本気なのかも。
普段の訓練や戦いを通してヴァレリアが成長してるのも、
背中を預けられる信頼できる仲間であることも確かではあったけど、
それでもあの時の事が心のどこかに残っていたんだ。
大丈夫、もうヴァレリアは強い、あんな事にはもうならない。
そう自分に言い聞かせてた。
でもやっぱりそう簡単にはいかなくて、完全には払拭できてなかった。
どうしても姫様を守れなかった事を忘れられなくて、
姫様とヴァレリアは違うのにどこかで重ねてた。
でも・・・・・・もう大丈夫なんだ。
もうあのワタシにならなくていいんだね」
「うん、安心して。
あたしはずっとコトと一緒にいるから。
・・・・・・追いて行っちゃったりしないから」
「うん。
ありがとう」
そうして満面の笑みを浮かべるコト。
その頬には涙が伝っていた。
そんなコトを抱きしめるヴァレリア。
あの時の自分になってしまうことをコトはやはり恐れていた。
だがこうして懸念が消えたことで本当に安心したことがあの涙から伝わってくる。
こうしてヴァレリアがプレゼントした箸置きは、
俺がプレゼントした箸と一緒にずっと使われ続けるのだった。
Fin