【復刻SS】今宮紀子
- 2016/11/13
- 22:39
とりあえず年末までは週1で過去のSSうpしたいと思います~
今日はぶらばん!の委員長こと紀子です~
それではどうぞ~
『文化祭での小さな奇跡』
「暑い・・・」
学園に向かう途中、香住純は再び同じ事をつぶやいた。
「そうね」
これまた同じ答えを返す、彼女の名前は今宮紀子。
メガネをかけていて、真面目そうで、
いかにも学級委員長を務めていそうな雰囲気が特徴的な彼女は、
やはり香住純のクラスの学級委員長を務めていた。
そんな彼女がなぜ彼と共に登校しているのかというと、
彼女は純の彼女だからだ。
「恥ずかしいから彼女、彼女と連呼しないでよっ」
「ん?どうかしたのか?誰かいるのか?」
「・・・気にしないで。
なんだかそんな風に言われてるような気がしただけだから」
「しかし暑いな・・・」
香住純が三度同じ事を言った。
「あなたも、暑い、暑い言いすぎよ」
「いや、だっておかしいだろ。
9月になったってのに、朝からこの気温なんだぜ?
地球温暖化反対!
ああ~早く冬が来ないかなぁ」
「そのうち涼しくなるでしょ。
それに冬になったら冬になったで、
地球温暖化はどうした!とか言ってるんじゃない?」
「う・・・ソ、ソンナコトハ・・・」
自信がないのか、純は片言になる。
「ないって、言える?」
「・・・言えません・・・」
「それに何より、そんな事言ってても涼しくならないわ。
みんな待っているでしょうし早く学園に行きましょう」
「そうだな」
そんな会話をしながら2人は学園に向かった。
しかし、本当は紀子はそんなに早く向かいたくはなかった。
こんな会話でも恋人との会話は楽しいからである。
香住純はブラスバンド部に所属している。
それは今宮紀子も同様だ。
そして純は部長だったりする。
春に行われた廃部をかけた学内コンクールにて、
赤城山ブラスバンド部を勝利に導いたのを評価された結果だ。
ではなぜそのような学内コンクールが行われることになったのかというと、
それは現在、純達の通う円山学園が赤城山学園を吸収合併した事が発端になる。
純はこの春までは赤城山学園に通っていたのだが、
昨今の少子化の影響を受け円山学園に合併されたのだった。
そのためこの春から円山学園に通うことになった。
部活動に関しては、
ブラスバンド部以外は問題なく合併したのだが、
ブラスバンド部だけはそうはいかなかった。
円山側の顧問が激しく拒否したからである。
しかし、学園に同じ部活動を二つ作る事は予算等の関係から不可能。
という事で、提案されたのが学内コンクールによる直接対決だった。
相手は全国コンクールで銀賞を取った円山ブラスバンド部。
勝負の結果はわかっていたようなものだった。
さらにそこに追い討ちをかけるように、
円山側顧問の嫌がらせが入る。
練習場所をプレハブ小屋のような部室のみにするようにしたり、
あまつさえ、仲間割れを引き起こすような事もたくらんだ。
しかし、赤城山ブラスバンド部はそういった事を乗り越え、
見事学内コンクールで勝利したのだった。
本来なら円山ブラスバンド部は敗北したのだから、
廃部という事になるはずだったのだが、
円山側の顧問がとある事情により、顧問を解任された事により、
拒否する者がいなくなったので、
お互い廃部になることなく、
ブラスバンド部も他の部活動同様合併したのである。
そんな騒動の中、純は紀子と付き合うことになったのだった。
それから4ヶ月あまり。
学園は今月に行われる文化祭について準備が進んでいた。
純達ブラスバンド部は体育館でコンサートを開くことになっていた。
学園に着くと2人は別れた。
紀子はクラスの出し物、
純はブラスバンド部の出し物についてのうち合わせがある。
打ち合わせは朝と放課後にあり、
紀子は文化祭の全体のミーティングとクラスの出し物、
純は部活の出し物とお互いの立場もあり忙しかった。
当然文化祭が近づくにつれ、忙しさは増し、
紀子と純の2人きりの時間はそれに比例して減っていった。
部活の事で最も話をするのが副部長だ。
部活動のスケジュールや指導面といった通常の事はもちろん、
文化祭の出し物ともなれば話をする頻度は当然増す。
その副部長は春に対決した円山ブラスバンド部の部長、
雲雀ヶ丘由貴である。
紀子と体系が異なり、
部内いや、学園でも1、2
位を争うのではないかと思われる
豊満な胸を持ち合わせ、
他の部位も日本人離れした体系をしており、
さらに整った顔をしている美少女である。
又、全国コンクールで銀賞をとるような部の部長であるため、
音楽に関しての知識も相当なものであった。
さらにそれに加えて、実家は超大金持ちで、
円山学園にも多大な額の寄付金をしており、
ブラスバンド部の楽器は彼女が用意した超一流のプロが使うような楽器なのだ。
彼女曰く、練習を怠った者が楽器のせいにさせないためらしい。
よくこんな人が率いてた部に勝てたものだ、と今でも思っている。
そして、部には他にもたくさんの女子生徒がいる。
純の幼馴染で隣の家に住んでいる中ノ島妙は、
学内コンクール前は副部長を務め、
純をサポートし、やはり部を勝利に導いた一人だ。
由貴ほどではないが、彼女も豊満な胸を持ち合わせており、
昔からの知り合いのため、純も妙とは親しい。
当然信頼感も抜群だ。
彼女がいなかったらあの時勝てなかったと言っても過言ではないだろう。
春からとある事情で赤城山の方に入ってきた新入生の海老原みなせと御影須美。
海老原みなせは元気のよさがとりえの女の子だ。
いつも元気で、部の雰囲気を明るくしてくれるムードメーカーで、
小動物的でとてもかわいらしい女の子だ。
御影須美は性格はおとなしいのだが、
一度決めた事は最後まで守る芯の強い女の子だ。
部ではパーカッションを担当しており、
そのリズム感はとてもすばらしく、
他の者がずれていても、常に正確なリズムを刻む天性の素質を持っている。
他にも合併した事でたくさんの女生徒が増えたのだった。
学園に着くと紀子は、今日は打ち合わせがなかったので、
授業の予習をしようとした。
しかし、どうも身が入らない。
それは予習だけではなく、通常授業すらそうだった。
原因はわかっていた。
香住純である。
彼と最近朝以外殆ど話せていないのだ。
「・・・私こんなに欲求不満だったっけ・・・」
紀子は自分に対してため息をついた。
しかし自分に気合を入れて奮い立たせる。
「ダメダメ、こんな事じゃ!
昼になれば話せるんだから、今はそれを楽しみにして集中しましょう!」
紀子はポジティブに考えることにした。
そして昼休みになった。
純は授業が終わるとすぐに教室を出て行ってしまったが、
廊下で見つけることができたので紀子は純に声をかけようとした。
しかし・・・
「・・・だから・・」
「・・・ええ・・・」
純は由貴と話していた。
「ん、紀子。どうした?」
紀子に気が付いた純が聞いてくる。
「あ、あの昼食を一緒に食べようと思って・・・」
「ごめん、ちょっと雲雀ヶ丘さんと大事な話してて、
この昼休み中に決めないといけないんだ。
悪いけど今日は・・・」
「ごめんなさいね、今宮さん」
「う、ううん。こちらこそごめんなさい。お話の邪魔しちゃって。
それじゃあ私行くわね」
そう言って紀子は歩き出した。
(一人での昼食はいつぶりだろう)
紀子はそんな事を考えていた。
夏休みも、文化祭の事や部活動で学園には来ていたので、
いつも純と昼食は一緒だった。
二学期になり文化祭の準備は忙しさを増したが、
それでも昼休みだけは一緒にいられた。
しかし、遂にその昼休みも今日は断られてしまった。
「はぁ」
紀子はまたため息をついてしまった。
久しぶりに一人で食べる昼食はおいしくなかった。
つい5ヶ月前までは一人で食べるのがあたり前だったのに、
彼と食べるようになってから、
いかに昼食が楽しかったのかがわかる。
最初は料理とは言えない物と、
自分のお弁当のおかずを交換してまで食べてくれた。
いつしか自分が彼の分の弁当も作る事になり、
それをおいしい、というだけではなく、
具体的に感想を言ってくれて、
おいしくない時もおいしくない、
としっかり言ってくれて、
どのようにすればいいか等のアドバイスもしてくれた。
その度にやる気を出して、
次こそはと思うことができたのだ。
そして最近では彼の好みの味もわかりだして、
おいしいと言ってもらえるようにもなっていた。
毎朝彼の昼食を作る事がどんどん楽しみになっていた。
「浮かれすぎてたのかしらね・・・」
程なくして食事を終えると、
紀子はとぼとぼとクラスに戻った。
気が付くと放課後だった。
授業の事を思い出そうとするが、
思い出せなかった。
ノートを見返すが、思い出せない。
いかに授業に集中できてなかったかがわかる。
いつの間にかクラスには紀子しかいなかった。
「部活・・・行かなきゃ・・・」
今日は放課後も打ち合わせがなかったので、
紀子は部活動に行くことにした。
「こんな気持ちで演奏なんてできるのかしら・・・」
紀子はそんな不安を抱えながら部室である音楽室に到着した。
そして重い気持ちでドアを開ける。
パン!パパン!
「ハッピーバースデー!」
ドアを開けた瞬間、そんな声とクラッカー音が聞こえてきた。
「え?」
咄嗟の事で反応できない紀子。
そんな紀子に純が近づいてくる。
「紀子、誕生日おめでとう。これ俺からのプレゼントだ」
そういってプレゼントを渡してくる。
「あ、ありがとう・・・」
今の今まで今日は自分の誕生日である事を忘れていた。
まだ唖然としている。
「最近付き合い悪くてごめん。でも紀子へのプレゼントは手作りのにしたかったから、放課後とかがんばって作ったんだ。それでもかなりいびつなんだけどな。 でもできれば受け取って欲しい。俺の気持ちだから・・・」
そこでやっと紀子が口を開く。
「ねぇ、どうして・・・?」
その声は涙を含んでいた。
「ねぇ、どうしてあなたはどうして、そんなに優しいの?
私なんかのためにどうしてこんな事やってくれるの?
たった一日、あなたとお昼ご飯を一緒にできなかっただけで、
落ち込んでるような小さな私なんかのために!
あなたの周りにはたくさんの魅力的な女の子がたくさんいるわよね?
元気いっぱいで部のみんなに好かれているかわいらしい後輩、
美しく、非の打ち所のない副部長、天才的なリズム感を持つ、はかなげな美少女、そして気心の知れた幼馴染!他にもたくさんの人がいるでしょ?
でも彼らの時はそんな事してなかったわよね?どうして私の時だけ・・・」
紀子は自分で何を言ってるのかわからなくなっていた。
そんな紀子を純は優しく抱きしめた。
そして一言伝えた。
「それは、紀子が好きだから」
それだけで紀子は落ち着いた。
そしてうれしさがこみ上げてきた。
そのうれしさは涙に代わる。
「他の誰かじゃ駄目なんだ、俺が愛しているのは紀子だけだよ」
「うん、うん・・・」
紀子は嬉しくて泣いていた。
「ああ~部長が今宮センパイを泣かした~」
「まったく、主賓を泣かせてどうするのですか」
非難の声と冷やかしの声が飛び交う。
そんな中、紀子ははっきりと純にお礼をいった。
「ありがとう」
「こんなゆっくり話すの久しぶりね」
文化祭が終わり、純と紀子は音楽室で話していた。
「ああ、そうだな。文化祭の準備とか、
紀子の誕生日パーティーの準備とかいろいろあったからな。
当日までに気付かれないようにするのに苦労したよ」
パーティーの約1週間後、文化祭が開かれた。
ブラスバンド部は予定通り体育館で演奏をした。
演奏したのは純の父親が作曲した曲で、
あの時円山ブラスバンド部に勝利した曲である、
『 〝絆〟吹奏楽のために』。
体育館に並べられた椅子が全て埋まり、
立ち見さえ出るほどの人気ぶりだった。
「文化祭も無事終わってよかったわ」
「いや、まだ、終わってないぜ?」
「え?」
「まだキャンプファイヤーが残ってる」
「あ・・・そうね」
この時紀子はもとある恋愛小説のワンシーンを思い出していた。
調度今の自分達にシーンが合致するのだ。
そこで紀子はその小説の主人公が言ったセリフで純を誘った。
「屋上に行かない?」
2人は屋上に到着した。
キャンプファイヤーが調度始まるときだった。
アナウンスが遠くから聞こえてくる。
『ただ今から、後夜祭を始めます』
軽快な音楽が流れてくる。
そこで純が紀子に手を差し伸べながら言った。
「踊っていただけますか、インポータントレディ?」
紀子は驚いた。
そのセリフは小説で書かれていた、
主人公の恋人と同じセリフだったからだ。
「・・・はい」
紀子もその小説の主人公と同じセリフを返した。
そうして2人だけの後夜祭が始まったのだった。
今日はぶらばん!の委員長こと紀子です~
それではどうぞ~
『文化祭での小さな奇跡』
「暑い・・・」
学園に向かう途中、香住純は再び同じ事をつぶやいた。
「そうね」
これまた同じ答えを返す、彼女の名前は今宮紀子。
メガネをかけていて、真面目そうで、
いかにも学級委員長を務めていそうな雰囲気が特徴的な彼女は、
やはり香住純のクラスの学級委員長を務めていた。
そんな彼女がなぜ彼と共に登校しているのかというと、
彼女は純の彼女だからだ。
「恥ずかしいから彼女、彼女と連呼しないでよっ」
「ん?どうかしたのか?誰かいるのか?」
「・・・気にしないで。
なんだかそんな風に言われてるような気がしただけだから」
「しかし暑いな・・・」
香住純が三度同じ事を言った。
「あなたも、暑い、暑い言いすぎよ」
「いや、だっておかしいだろ。
9月になったってのに、朝からこの気温なんだぜ?
地球温暖化反対!
ああ~早く冬が来ないかなぁ」
「そのうち涼しくなるでしょ。
それに冬になったら冬になったで、
地球温暖化はどうした!とか言ってるんじゃない?」
「う・・・ソ、ソンナコトハ・・・」
自信がないのか、純は片言になる。
「ないって、言える?」
「・・・言えません・・・」
「それに何より、そんな事言ってても涼しくならないわ。
みんな待っているでしょうし早く学園に行きましょう」
「そうだな」
そんな会話をしながら2人は学園に向かった。
しかし、本当は紀子はそんなに早く向かいたくはなかった。
こんな会話でも恋人との会話は楽しいからである。
香住純はブラスバンド部に所属している。
それは今宮紀子も同様だ。
そして純は部長だったりする。
春に行われた廃部をかけた学内コンクールにて、
赤城山ブラスバンド部を勝利に導いたのを評価された結果だ。
ではなぜそのような学内コンクールが行われることになったのかというと、
それは現在、純達の通う円山学園が赤城山学園を吸収合併した事が発端になる。
純はこの春までは赤城山学園に通っていたのだが、
昨今の少子化の影響を受け円山学園に合併されたのだった。
そのためこの春から円山学園に通うことになった。
部活動に関しては、
ブラスバンド部以外は問題なく合併したのだが、
ブラスバンド部だけはそうはいかなかった。
円山側の顧問が激しく拒否したからである。
しかし、学園に同じ部活動を二つ作る事は予算等の関係から不可能。
という事で、提案されたのが学内コンクールによる直接対決だった。
相手は全国コンクールで銀賞を取った円山ブラスバンド部。
勝負の結果はわかっていたようなものだった。
さらにそこに追い討ちをかけるように、
円山側顧問の嫌がらせが入る。
練習場所をプレハブ小屋のような部室のみにするようにしたり、
あまつさえ、仲間割れを引き起こすような事もたくらんだ。
しかし、赤城山ブラスバンド部はそういった事を乗り越え、
見事学内コンクールで勝利したのだった。
本来なら円山ブラスバンド部は敗北したのだから、
廃部という事になるはずだったのだが、
円山側の顧問がとある事情により、顧問を解任された事により、
拒否する者がいなくなったので、
お互い廃部になることなく、
ブラスバンド部も他の部活動同様合併したのである。
そんな騒動の中、純は紀子と付き合うことになったのだった。
それから4ヶ月あまり。
学園は今月に行われる文化祭について準備が進んでいた。
純達ブラスバンド部は体育館でコンサートを開くことになっていた。
学園に着くと2人は別れた。
紀子はクラスの出し物、
純はブラスバンド部の出し物についてのうち合わせがある。
打ち合わせは朝と放課後にあり、
紀子は文化祭の全体のミーティングとクラスの出し物、
純は部活の出し物とお互いの立場もあり忙しかった。
当然文化祭が近づくにつれ、忙しさは増し、
紀子と純の2人きりの時間はそれに比例して減っていった。
部活の事で最も話をするのが副部長だ。
部活動のスケジュールや指導面といった通常の事はもちろん、
文化祭の出し物ともなれば話をする頻度は当然増す。
その副部長は春に対決した円山ブラスバンド部の部長、
雲雀ヶ丘由貴である。
紀子と体系が異なり、
部内いや、学園でも1、2
位を争うのではないかと思われる
豊満な胸を持ち合わせ、
他の部位も日本人離れした体系をしており、
さらに整った顔をしている美少女である。
又、全国コンクールで銀賞をとるような部の部長であるため、
音楽に関しての知識も相当なものであった。
さらにそれに加えて、実家は超大金持ちで、
円山学園にも多大な額の寄付金をしており、
ブラスバンド部の楽器は彼女が用意した超一流のプロが使うような楽器なのだ。
彼女曰く、練習を怠った者が楽器のせいにさせないためらしい。
よくこんな人が率いてた部に勝てたものだ、と今でも思っている。
そして、部には他にもたくさんの女子生徒がいる。
純の幼馴染で隣の家に住んでいる中ノ島妙は、
学内コンクール前は副部長を務め、
純をサポートし、やはり部を勝利に導いた一人だ。
由貴ほどではないが、彼女も豊満な胸を持ち合わせており、
昔からの知り合いのため、純も妙とは親しい。
当然信頼感も抜群だ。
彼女がいなかったらあの時勝てなかったと言っても過言ではないだろう。
春からとある事情で赤城山の方に入ってきた新入生の海老原みなせと御影須美。
海老原みなせは元気のよさがとりえの女の子だ。
いつも元気で、部の雰囲気を明るくしてくれるムードメーカーで、
小動物的でとてもかわいらしい女の子だ。
御影須美は性格はおとなしいのだが、
一度決めた事は最後まで守る芯の強い女の子だ。
部ではパーカッションを担当しており、
そのリズム感はとてもすばらしく、
他の者がずれていても、常に正確なリズムを刻む天性の素質を持っている。
他にも合併した事でたくさんの女生徒が増えたのだった。
学園に着くと紀子は、今日は打ち合わせがなかったので、
授業の予習をしようとした。
しかし、どうも身が入らない。
それは予習だけではなく、通常授業すらそうだった。
原因はわかっていた。
香住純である。
彼と最近朝以外殆ど話せていないのだ。
「・・・私こんなに欲求不満だったっけ・・・」
紀子は自分に対してため息をついた。
しかし自分に気合を入れて奮い立たせる。
「ダメダメ、こんな事じゃ!
昼になれば話せるんだから、今はそれを楽しみにして集中しましょう!」
紀子はポジティブに考えることにした。
そして昼休みになった。
純は授業が終わるとすぐに教室を出て行ってしまったが、
廊下で見つけることができたので紀子は純に声をかけようとした。
しかし・・・
「・・・だから・・」
「・・・ええ・・・」
純は由貴と話していた。
「ん、紀子。どうした?」
紀子に気が付いた純が聞いてくる。
「あ、あの昼食を一緒に食べようと思って・・・」
「ごめん、ちょっと雲雀ヶ丘さんと大事な話してて、
この昼休み中に決めないといけないんだ。
悪いけど今日は・・・」
「ごめんなさいね、今宮さん」
「う、ううん。こちらこそごめんなさい。お話の邪魔しちゃって。
それじゃあ私行くわね」
そう言って紀子は歩き出した。
(一人での昼食はいつぶりだろう)
紀子はそんな事を考えていた。
夏休みも、文化祭の事や部活動で学園には来ていたので、
いつも純と昼食は一緒だった。
二学期になり文化祭の準備は忙しさを増したが、
それでも昼休みだけは一緒にいられた。
しかし、遂にその昼休みも今日は断られてしまった。
「はぁ」
紀子はまたため息をついてしまった。
久しぶりに一人で食べる昼食はおいしくなかった。
つい5ヶ月前までは一人で食べるのがあたり前だったのに、
彼と食べるようになってから、
いかに昼食が楽しかったのかがわかる。
最初は料理とは言えない物と、
自分のお弁当のおかずを交換してまで食べてくれた。
いつしか自分が彼の分の弁当も作る事になり、
それをおいしい、というだけではなく、
具体的に感想を言ってくれて、
おいしくない時もおいしくない、
としっかり言ってくれて、
どのようにすればいいか等のアドバイスもしてくれた。
その度にやる気を出して、
次こそはと思うことができたのだ。
そして最近では彼の好みの味もわかりだして、
おいしいと言ってもらえるようにもなっていた。
毎朝彼の昼食を作る事がどんどん楽しみになっていた。
「浮かれすぎてたのかしらね・・・」
程なくして食事を終えると、
紀子はとぼとぼとクラスに戻った。
気が付くと放課後だった。
授業の事を思い出そうとするが、
思い出せなかった。
ノートを見返すが、思い出せない。
いかに授業に集中できてなかったかがわかる。
いつの間にかクラスには紀子しかいなかった。
「部活・・・行かなきゃ・・・」
今日は放課後も打ち合わせがなかったので、
紀子は部活動に行くことにした。
「こんな気持ちで演奏なんてできるのかしら・・・」
紀子はそんな不安を抱えながら部室である音楽室に到着した。
そして重い気持ちでドアを開ける。
パン!パパン!
「ハッピーバースデー!」
ドアを開けた瞬間、そんな声とクラッカー音が聞こえてきた。
「え?」
咄嗟の事で反応できない紀子。
そんな紀子に純が近づいてくる。
「紀子、誕生日おめでとう。これ俺からのプレゼントだ」
そういってプレゼントを渡してくる。
「あ、ありがとう・・・」
今の今まで今日は自分の誕生日である事を忘れていた。
まだ唖然としている。
「最近付き合い悪くてごめん。でも紀子へのプレゼントは手作りのにしたかったから、放課後とかがんばって作ったんだ。それでもかなりいびつなんだけどな。 でもできれば受け取って欲しい。俺の気持ちだから・・・」
そこでやっと紀子が口を開く。
「ねぇ、どうして・・・?」
その声は涙を含んでいた。
「ねぇ、どうしてあなたはどうして、そんなに優しいの?
私なんかのためにどうしてこんな事やってくれるの?
たった一日、あなたとお昼ご飯を一緒にできなかっただけで、
落ち込んでるような小さな私なんかのために!
あなたの周りにはたくさんの魅力的な女の子がたくさんいるわよね?
元気いっぱいで部のみんなに好かれているかわいらしい後輩、
美しく、非の打ち所のない副部長、天才的なリズム感を持つ、はかなげな美少女、そして気心の知れた幼馴染!他にもたくさんの人がいるでしょ?
でも彼らの時はそんな事してなかったわよね?どうして私の時だけ・・・」
紀子は自分で何を言ってるのかわからなくなっていた。
そんな紀子を純は優しく抱きしめた。
そして一言伝えた。
「それは、紀子が好きだから」
それだけで紀子は落ち着いた。
そしてうれしさがこみ上げてきた。
そのうれしさは涙に代わる。
「他の誰かじゃ駄目なんだ、俺が愛しているのは紀子だけだよ」
「うん、うん・・・」
紀子は嬉しくて泣いていた。
「ああ~部長が今宮センパイを泣かした~」
「まったく、主賓を泣かせてどうするのですか」
非難の声と冷やかしの声が飛び交う。
そんな中、紀子ははっきりと純にお礼をいった。
「ありがとう」
「こんなゆっくり話すの久しぶりね」
文化祭が終わり、純と紀子は音楽室で話していた。
「ああ、そうだな。文化祭の準備とか、
紀子の誕生日パーティーの準備とかいろいろあったからな。
当日までに気付かれないようにするのに苦労したよ」
パーティーの約1週間後、文化祭が開かれた。
ブラスバンド部は予定通り体育館で演奏をした。
演奏したのは純の父親が作曲した曲で、
あの時円山ブラスバンド部に勝利した曲である、
『 〝絆〟吹奏楽のために』。
体育館に並べられた椅子が全て埋まり、
立ち見さえ出るほどの人気ぶりだった。
「文化祭も無事終わってよかったわ」
「いや、まだ、終わってないぜ?」
「え?」
「まだキャンプファイヤーが残ってる」
「あ・・・そうね」
この時紀子はもとある恋愛小説のワンシーンを思い出していた。
調度今の自分達にシーンが合致するのだ。
そこで紀子はその小説の主人公が言ったセリフで純を誘った。
「屋上に行かない?」
2人は屋上に到着した。
キャンプファイヤーが調度始まるときだった。
アナウンスが遠くから聞こえてくる。
『ただ今から、後夜祭を始めます』
軽快な音楽が流れてくる。
そこで純が紀子に手を差し伸べながら言った。
「踊っていただけますか、インポータントレディ?」
紀子は驚いた。
そのセリフは小説で書かれていた、
主人公の恋人と同じセリフだったからだ。
「・・・はい」
紀子もその小説の主人公と同じセリフを返した。
そうして2人だけの後夜祭が始まったのだった。