【復刻SS】海老原みなせ
- 2016/12/03
- 13:32
週末恒例SSです~
今週お届けするのはぶらばん!ヒロインの最後の5人目、遊び人が唯一『嫁』と呼ぶ海老原みなせのSSになります~
これも同人誌には収録してなかったかもです。
それでは本編をごゆっくりお楽しみ下さい。
センパイとあたしが出会った春が過ぎ・・・
センパイに湊を紹介した夏が過ぎ・・・
センパイと一緒に演奏した文化祭が行われた秋が過ぎ・・・
あたしの誕生日を家族と一緒にセンパイが祝ってくれた冬が過ぎ・・・
また春がやってきた。
あれから1年。
センパイとあたしはそれぞれ進級し、今日は始業式が行われる。
あたしはまだ春休み気分できっと寝ているであろうセンパイを起こしにセンパイの家に向かっていた。
(ん~今日もいい天気。やっぱり始業式の日は晴れててくれたほうがいいよね)
そんな事を思いつつ歩いているとセンパイの家の前に着いた。
インターホンを押し、おばさんに許可をいただき、家の中へ入る。
そしてあたしは、
「センパ~イおっはようございま~す!」
と言いながらベッドにダイブした。
しかし・・・
「あれ?なんか柔らかい?」
布団を剥がすと・・・
抱き枕がそこにあった。
「ふっふっふ・・・」
どこかからか声が聞こえてきた。
「この俺がいつまでも同じ技を喰らうと思っているのか?」
あたしはベッドの上から部屋を見回します。
「俺はここだっ!」
そんなセリフを言うとセンパイはベッドの下から姿を現しました。
「やった、やったぞ・・・ついにやった・・・!みなせダイナマイツ破れたり!」
「くっ・・・そんな・・・」
あたしはセンパイのノリに合わせる。
「とりあえず小芝居はこれくらいにするか」
「ええ~やめちゃうんですか~?」
「朝飯食べる時間がなくなるからな。下行こうぜ」
センパイは既に学生服に着替えていたから、着替える必要もない。
「寝巻きだとまた一芝居になりそうだったからな」
「うぅ・・・あたしの朝の楽しみが・・・
こうなったら何か新しい手段を考えなくちゃダメですね」
「考えんでええ!」
センパイは全力で否定したのだった。
センパイと学園に向かっていつもの道を歩きます。
「俺もついに受験生か~」
センパイがだるそうな雰囲気で言いました。
「そうだ、センパイは進路どうするんですか?」
「ん~進学かな」
「音楽関係の所に行くんですか?」
「正直まだ考えてない。和音先生にも今度ちょっと相談してみるつもりなんだ」
「そうですか」
「みなせは何か考えているか?」
「あたしは決まってるじゃないですか」
「おお!?」
「当然センパイに永久就職です♪」
「・・・」
「ええ~そこで黙っちゃうんですか!?かわいい彼女がずっと傍に居てあげるって言ってるんですよ!?」
「みなせに聞いた俺がバカだった・・・」
「かっちーん!なんですか、その反応は!?」
「俺が聞きたかったのは進学するか就職するかって事だよ」
「だからセンパイに・・・」
「それはもういいって。学園卒業してすぐ結婚するわけじゃないだろ。そりゃ俺だってみなせとずっと一緒にいるつもりでいるさ。でも進路は別問題だろ」
「進路ですか~まああたしはセンパイ次第ですね。
センパイが進学するならあたしもそこに進学しますし、センパイが就職するならあたしもそこに就職します。
あ、でもセンパイが浪人してくれたら一緒に受験生になれますね。
センパイと受験勉強とかいいかも・・・」
「な~に言ってるんだ。俺は浪人するつもりはさらさらないぞ。
ともかくまだ一年あるんだしよく考えてみるよ」
「それがいいと思います」
センパイとそんな話をしていると直に学園に到着しました。
「じゃあまた後でな」
学園に着くとあたし達はそれぞれの学年のクラス表を見て、各々の教室に向かった。
あたしは教室に入る。
すると・・・
「あ、みなせちゃんおはよう」
同じブラスバンド部の須美ちゃんが挨拶をしてきた。
続いて須美ちゃんと話していた同じブラスバンド部の人たちも挨拶する。
あたしは笑顔で彼らに挨拶を返す。
「みんなおはよ~。そっか、同じクラスか~あたし自分のだけしか確認してなかったよ~」
「クスクス。そうだったんだ」
須美ちゃんは苦笑する。
「みんな、これから一年またよろしくね」
「こちらこそ~」
お互いに挨拶をすますとチャイムが鳴り、先生が入ってきたのであたしは自分の席に着いた。
放課後。
あたし達は音楽室に集合していた。
その場にはセンパイを含めた新3年生はいない。そして当然まだ新入生もいない。
つまりいるのはあたし達、新2年生だけだ。
うちの学園は3年生の引退が早い。
一部、夏まで3年生が残る部活もあるが、多くの部に3年生は在籍しない。進学校らしく、3年生は受験勉強や就職活動に専念できるように、という事なのだろうか。うちの部活も例に漏れず、新3年生は3月に行われた卒業式での演奏を最後に引退した。存在感が強い人達が多かっただけに、その方々がいなくなるとかなり部室を取り巻く空気が変わっていた。みんな不安なのか少し落ち着きがない。
お互いに話す内容も今後どうなるのか、といった事が多かった。
そうしているうちにドアが開いた。
「みんな揃ってるか~?」
顧問の新開地先生が入ってくる。教室に入ると新開地先生は一通り見回した。
「よし、全員揃っているみたいだな。今年もアタシが顧問をすることになった。また一年よろしくな」
新開地先生が挨拶する。
「さて、あいつら3年が抜けて、これからはいよいよお前達がこの円山ブラスバンド部を引っ張っていくわけだが・・・」
ここで新開地先生は話を一度区切り、あたし達を見回した。
「まあ最初はやっぱり不安なんだからしょうがないか・・・」
あたし達は不安を隠しきれない。
「あいつらはかなりキャラの濃い連中が集まっていたからな。あの騒動もあったし。
だがな、あいつらだって今のお前達と同じ・・・いや、もっと過酷な状況で頑張ってきたんだ。
あいつらも最初はどうしたらいいか迷っていたさ。だが、暗闇の中を手探りで探り、ゴールを見つけた。あいつらにできてお前達にできない事はない。アタシはそう信じている」
「そうだな・・・」
「先輩達にできて私達ができないはずないもんね」
新開地先生の言葉を受けてみんなやれる気になったみたい。
「よ~し!それじゃあとりあえず今日はまず部長と副部長を発表しようと思う。
その後は前から話してあった部活動紹介での事の最終確認を行うといったところか。
一応今日はアタシも多少時間があるから合奏は聞いていく。
その後の事は新部長達に任せる。
じゃあまずは新部長の発表だな。新部長は・・・」
こうしてあたし達の中から部長と副部長が選ばれた。
彼らが挨拶した後は予定通り部活動紹介で行う演奏の曲を全員で行い、その後はパート練習になった。
あたしは合奏を行う前に現れた前部長のセンパイと屋上への階段を昇っていた。
「あたしの演奏どうでした?」
あたしは問いかける。
「ああ。1年前と比べるとかなり上達したな。
あの頬を膨らます癖も完全に直ったみたいだし」
「意識して直しましたからね。実は湊もトランペット始めて、あたしが教える事になったんですよ。それで悪い癖は直さなきゃって思って」
「へぇ、湊ちゃんも始めたのか!でもちゃんと教えられてるのか?」
「あたしも人に教えるのなんて経験ありませんけど、いい機会かなって思うんです。後輩ができたら教える事になるかもしれませんし。あの時のセンパイみたいに」
「ああ。あれからもう1年か・・・」
「ええ」
あたし達はしばらくこの一年何があったか思い出しながらしばらく校庭を眺めていました。
ぱちぱちぱち。
体育館に拍手が木霊する。
あたし達の部活動紹介が終わりました。
拍手から察するに新入生も多少は興味を持ってくれたのではないだろうか。
あたし達は袖に入るとお互いの感想を言い合います。
あたしは須美ちゃんと話していました。
「お疲れ様~」
「うん。みなせちゃんもお疲れ様」
須美ちゃんは笑顔だ。
「結構拍手はいい感じだったよね。
新入生入ってくれるかな?」
「きっと来てくれるよ。
そうなればあたし達も先輩だね。
こないだ新開地先生が言ってたけど、いよいよあたし達が部を引っ張っていくんだよね。
頑張らなきゃ」
「私・・・人に教えるのなんて自信ないけど・・・
いつまでもこんなこと言ってられないもんね。
先輩方みたいに教える事はできないけど精一杯がんばる!」
「うん、一緒にがんばろう!」
あたし達は改めて決意を固めたのでした。
数日後。
ついに新入生が入部しました。
あたし達より多くの人が来てくれて喜ぶあたし達。
早速、新入生に自己紹介をしていただきます。
そしてその時に意気込みと担当したい楽器を伺うことになりました。
どんどん自己紹介が進んでいきます。
しかしトランペットと言う人はいません。
そして自己紹介が進んで行き、ついに残り一人になりました。
少しおとなしめな雰囲気通りなのか、自己紹介をする機会を伺ってたら最後になってしまったようです。
そしてその子がついに自己紹介を始めます。
「は、はじめまして・・・1年B組みの堺智恵です。
えっと・・・ブラスバンドは中学からしかやっていないので皆さんと比べてかなり年数がすくないですが、ブラスバンドを好きな気持ちは人一倍持っているつもりです。
皆さんの足を引っ張らないようがんばってうまく演奏できるようになりたいと思います」
(へ~いい子だな)
あたしはそんな感想を抱きました。
そして・・・
「担当楽器はトランペットでお願いしたいです。
よろしくお願いします」
その子をあたしが担当することになったのでした。
「あたし海老原みなせ。これからよろしくね」
新入生の自己紹介が終わった後、あたし達も自己紹介をしたのだけど、これから長い付き合いになるだろうし改めて挨拶をしたのでした。
「堺智恵です。よろしくお願いします!」
彼女はそう言って頭を下げる。
あたし達は屋上に来ていました。
2年の自己紹介が終わった後、いつものように合奏を行いパート練習に入ったのでした。
新入生はまだ無理だろうからということで見学してもらってたけど。
とりあえずあたしは彼女の実力を見てみる事にしようと思ったのでした。
「うん、よろしく~
それじゃあ早速だけど、吹いてみてもらえるかな」
「あ、はい」
彼女は答えると楽器を準備し口に加えます。
そして大きく息を吸い・・・
プア~~~
思いっきり吹きました。
物凄く頬が膨らんでます。
(あれ、これって・・・)
あたしは苦笑いを浮かべながら彼女が演奏するのを止めたのでした。
そしてそれを彼女に伝えると気が付いてなかったようで驚いていました。
あたしは自分の体験を彼女に伝え、自分も同じ癖をもっていたからできる、アドバイスをしてあげたのでした。
そして、数週間後彼女はそれを直す事ができたのでした。
「これがあたしが教師になろうと思った出来事ね」
あたしは目の前の数人のブラスバンド部の生徒たちに話す。
その中にはあたしの妹の湊もいた。
「あたしはこの時人に教える事の楽しさを知った。そしてあたしの卒業式の日に彼女は立派に演奏してくれた。それがとても嬉しくてこの感動を他の人にも知ってもらいたくてこの道を進む事を決意したのよ」
「そうだったのですか~」
生徒達が感動します。
「さ、思い出話はこれくらいにして!次のコンクールも近いし、あなた達もパート練習しっかりね」
「は~い」
生徒達は元気よく答えると教室を出ていった。
一人を覗いて。
「おねえちゃん」
残った一人が聞いてきました。
「湊?どうしたの?」
「うん・・・あたし今も上手じゃないけど、昔の今よりもっと下手なあたしに教えるの苦労じゃなかった・・・?」
湊は申し訳なさそうに言いました。
あたしは目をしばたたかせました。
「苦労なんて思うわけないじゃない。じゃなきゃ今のこの仕事やってないよ。まして大切な妹が興味持ってくれたんだもん。あたしは苦労なんて思うどころか、嬉しかったよ」
「おねえちゃん・・・そう言ってもらえてあたしとても嬉しいよ。これからもよろしくね」
「悩み事があるならいつでも来なさい。あたしは湊と血は繋がっていないけどたった一人の姉妹なんだから」
「うん!それじゃああたしもパート練習行ってくるね」
「頑張ってきなさいね~」
あたしは湊を送り出しました。
あたしは卒業した後、純さんが進んだ大学に進み、教職免許をとったのでした。
純さんも教員は一つの選択肢として考えていたようで、あたしが入学して、教員になる事を告げると、純さんも教職になる道を固めたのでした。
そして一年前、純さんがあたし達の母校の円山学園の音楽教員になり、あたしも一年後にやはり円山学園に就職したのでした。
新開地先生はあたし達が卒業した後も、何度かコンクールで入賞し、あたしと入れ違いで別のお仕事をする事になったようです。
そして純さんが顧問、あたしが副顧問として部を支えていく事になったのでした。
新開地先生のように部がたくさん賞取れるような指導をしていくのは難しいですが、少しづつでも新開地先生のような指導ができるよう、頑張っていきたいと思っております。
これが今のあたしの立場。
純さんと一緒に、いつか新開地先生のような指導ができるようになりたいです。
Fin
今週お届けするのはぶらばん!ヒロインの最後の5人目、遊び人が唯一『嫁』と呼ぶ海老原みなせのSSになります~
これも同人誌には収録してなかったかもです。
それでは本編をごゆっくりお楽しみ下さい。
センパイとあたしが出会った春が過ぎ・・・
センパイに湊を紹介した夏が過ぎ・・・
センパイと一緒に演奏した文化祭が行われた秋が過ぎ・・・
あたしの誕生日を家族と一緒にセンパイが祝ってくれた冬が過ぎ・・・
また春がやってきた。
あれから1年。
センパイとあたしはそれぞれ進級し、今日は始業式が行われる。
あたしはまだ春休み気分できっと寝ているであろうセンパイを起こしにセンパイの家に向かっていた。
(ん~今日もいい天気。やっぱり始業式の日は晴れててくれたほうがいいよね)
そんな事を思いつつ歩いているとセンパイの家の前に着いた。
インターホンを押し、おばさんに許可をいただき、家の中へ入る。
そしてあたしは、
「センパ~イおっはようございま~す!」
と言いながらベッドにダイブした。
しかし・・・
「あれ?なんか柔らかい?」
布団を剥がすと・・・
抱き枕がそこにあった。
「ふっふっふ・・・」
どこかからか声が聞こえてきた。
「この俺がいつまでも同じ技を喰らうと思っているのか?」
あたしはベッドの上から部屋を見回します。
「俺はここだっ!」
そんなセリフを言うとセンパイはベッドの下から姿を現しました。
「やった、やったぞ・・・ついにやった・・・!みなせダイナマイツ破れたり!」
「くっ・・・そんな・・・」
あたしはセンパイのノリに合わせる。
「とりあえず小芝居はこれくらいにするか」
「ええ~やめちゃうんですか~?」
「朝飯食べる時間がなくなるからな。下行こうぜ」
センパイは既に学生服に着替えていたから、着替える必要もない。
「寝巻きだとまた一芝居になりそうだったからな」
「うぅ・・・あたしの朝の楽しみが・・・
こうなったら何か新しい手段を考えなくちゃダメですね」
「考えんでええ!」
センパイは全力で否定したのだった。
センパイと学園に向かっていつもの道を歩きます。
「俺もついに受験生か~」
センパイがだるそうな雰囲気で言いました。
「そうだ、センパイは進路どうするんですか?」
「ん~進学かな」
「音楽関係の所に行くんですか?」
「正直まだ考えてない。和音先生にも今度ちょっと相談してみるつもりなんだ」
「そうですか」
「みなせは何か考えているか?」
「あたしは決まってるじゃないですか」
「おお!?」
「当然センパイに永久就職です♪」
「・・・」
「ええ~そこで黙っちゃうんですか!?かわいい彼女がずっと傍に居てあげるって言ってるんですよ!?」
「みなせに聞いた俺がバカだった・・・」
「かっちーん!なんですか、その反応は!?」
「俺が聞きたかったのは進学するか就職するかって事だよ」
「だからセンパイに・・・」
「それはもういいって。学園卒業してすぐ結婚するわけじゃないだろ。そりゃ俺だってみなせとずっと一緒にいるつもりでいるさ。でも進路は別問題だろ」
「進路ですか~まああたしはセンパイ次第ですね。
センパイが進学するならあたしもそこに進学しますし、センパイが就職するならあたしもそこに就職します。
あ、でもセンパイが浪人してくれたら一緒に受験生になれますね。
センパイと受験勉強とかいいかも・・・」
「な~に言ってるんだ。俺は浪人するつもりはさらさらないぞ。
ともかくまだ一年あるんだしよく考えてみるよ」
「それがいいと思います」
センパイとそんな話をしていると直に学園に到着しました。
「じゃあまた後でな」
学園に着くとあたし達はそれぞれの学年のクラス表を見て、各々の教室に向かった。
あたしは教室に入る。
すると・・・
「あ、みなせちゃんおはよう」
同じブラスバンド部の須美ちゃんが挨拶をしてきた。
続いて須美ちゃんと話していた同じブラスバンド部の人たちも挨拶する。
あたしは笑顔で彼らに挨拶を返す。
「みんなおはよ~。そっか、同じクラスか~あたし自分のだけしか確認してなかったよ~」
「クスクス。そうだったんだ」
須美ちゃんは苦笑する。
「みんな、これから一年またよろしくね」
「こちらこそ~」
お互いに挨拶をすますとチャイムが鳴り、先生が入ってきたのであたしは自分の席に着いた。
放課後。
あたし達は音楽室に集合していた。
その場にはセンパイを含めた新3年生はいない。そして当然まだ新入生もいない。
つまりいるのはあたし達、新2年生だけだ。
うちの学園は3年生の引退が早い。
一部、夏まで3年生が残る部活もあるが、多くの部に3年生は在籍しない。進学校らしく、3年生は受験勉強や就職活動に専念できるように、という事なのだろうか。うちの部活も例に漏れず、新3年生は3月に行われた卒業式での演奏を最後に引退した。存在感が強い人達が多かっただけに、その方々がいなくなるとかなり部室を取り巻く空気が変わっていた。みんな不安なのか少し落ち着きがない。
お互いに話す内容も今後どうなるのか、といった事が多かった。
そうしているうちにドアが開いた。
「みんな揃ってるか~?」
顧問の新開地先生が入ってくる。教室に入ると新開地先生は一通り見回した。
「よし、全員揃っているみたいだな。今年もアタシが顧問をすることになった。また一年よろしくな」
新開地先生が挨拶する。
「さて、あいつら3年が抜けて、これからはいよいよお前達がこの円山ブラスバンド部を引っ張っていくわけだが・・・」
ここで新開地先生は話を一度区切り、あたし達を見回した。
「まあ最初はやっぱり不安なんだからしょうがないか・・・」
あたし達は不安を隠しきれない。
「あいつらはかなりキャラの濃い連中が集まっていたからな。あの騒動もあったし。
だがな、あいつらだって今のお前達と同じ・・・いや、もっと過酷な状況で頑張ってきたんだ。
あいつらも最初はどうしたらいいか迷っていたさ。だが、暗闇の中を手探りで探り、ゴールを見つけた。あいつらにできてお前達にできない事はない。アタシはそう信じている」
「そうだな・・・」
「先輩達にできて私達ができないはずないもんね」
新開地先生の言葉を受けてみんなやれる気になったみたい。
「よ~し!それじゃあとりあえず今日はまず部長と副部長を発表しようと思う。
その後は前から話してあった部活動紹介での事の最終確認を行うといったところか。
一応今日はアタシも多少時間があるから合奏は聞いていく。
その後の事は新部長達に任せる。
じゃあまずは新部長の発表だな。新部長は・・・」
こうしてあたし達の中から部長と副部長が選ばれた。
彼らが挨拶した後は予定通り部活動紹介で行う演奏の曲を全員で行い、その後はパート練習になった。
あたしは合奏を行う前に現れた前部長のセンパイと屋上への階段を昇っていた。
「あたしの演奏どうでした?」
あたしは問いかける。
「ああ。1年前と比べるとかなり上達したな。
あの頬を膨らます癖も完全に直ったみたいだし」
「意識して直しましたからね。実は湊もトランペット始めて、あたしが教える事になったんですよ。それで悪い癖は直さなきゃって思って」
「へぇ、湊ちゃんも始めたのか!でもちゃんと教えられてるのか?」
「あたしも人に教えるのなんて経験ありませんけど、いい機会かなって思うんです。後輩ができたら教える事になるかもしれませんし。あの時のセンパイみたいに」
「ああ。あれからもう1年か・・・」
「ええ」
あたし達はしばらくこの一年何があったか思い出しながらしばらく校庭を眺めていました。
ぱちぱちぱち。
体育館に拍手が木霊する。
あたし達の部活動紹介が終わりました。
拍手から察するに新入生も多少は興味を持ってくれたのではないだろうか。
あたし達は袖に入るとお互いの感想を言い合います。
あたしは須美ちゃんと話していました。
「お疲れ様~」
「うん。みなせちゃんもお疲れ様」
須美ちゃんは笑顔だ。
「結構拍手はいい感じだったよね。
新入生入ってくれるかな?」
「きっと来てくれるよ。
そうなればあたし達も先輩だね。
こないだ新開地先生が言ってたけど、いよいよあたし達が部を引っ張っていくんだよね。
頑張らなきゃ」
「私・・・人に教えるのなんて自信ないけど・・・
いつまでもこんなこと言ってられないもんね。
先輩方みたいに教える事はできないけど精一杯がんばる!」
「うん、一緒にがんばろう!」
あたし達は改めて決意を固めたのでした。
数日後。
ついに新入生が入部しました。
あたし達より多くの人が来てくれて喜ぶあたし達。
早速、新入生に自己紹介をしていただきます。
そしてその時に意気込みと担当したい楽器を伺うことになりました。
どんどん自己紹介が進んでいきます。
しかしトランペットと言う人はいません。
そして自己紹介が進んで行き、ついに残り一人になりました。
少しおとなしめな雰囲気通りなのか、自己紹介をする機会を伺ってたら最後になってしまったようです。
そしてその子がついに自己紹介を始めます。
「は、はじめまして・・・1年B組みの堺智恵です。
えっと・・・ブラスバンドは中学からしかやっていないので皆さんと比べてかなり年数がすくないですが、ブラスバンドを好きな気持ちは人一倍持っているつもりです。
皆さんの足を引っ張らないようがんばってうまく演奏できるようになりたいと思います」
(へ~いい子だな)
あたしはそんな感想を抱きました。
そして・・・
「担当楽器はトランペットでお願いしたいです。
よろしくお願いします」
その子をあたしが担当することになったのでした。
「あたし海老原みなせ。これからよろしくね」
新入生の自己紹介が終わった後、あたし達も自己紹介をしたのだけど、これから長い付き合いになるだろうし改めて挨拶をしたのでした。
「堺智恵です。よろしくお願いします!」
彼女はそう言って頭を下げる。
あたし達は屋上に来ていました。
2年の自己紹介が終わった後、いつものように合奏を行いパート練習に入ったのでした。
新入生はまだ無理だろうからということで見学してもらってたけど。
とりあえずあたしは彼女の実力を見てみる事にしようと思ったのでした。
「うん、よろしく~
それじゃあ早速だけど、吹いてみてもらえるかな」
「あ、はい」
彼女は答えると楽器を準備し口に加えます。
そして大きく息を吸い・・・
プア~~~
思いっきり吹きました。
物凄く頬が膨らんでます。
(あれ、これって・・・)
あたしは苦笑いを浮かべながら彼女が演奏するのを止めたのでした。
そしてそれを彼女に伝えると気が付いてなかったようで驚いていました。
あたしは自分の体験を彼女に伝え、自分も同じ癖をもっていたからできる、アドバイスをしてあげたのでした。
そして、数週間後彼女はそれを直す事ができたのでした。
「これがあたしが教師になろうと思った出来事ね」
あたしは目の前の数人のブラスバンド部の生徒たちに話す。
その中にはあたしの妹の湊もいた。
「あたしはこの時人に教える事の楽しさを知った。そしてあたしの卒業式の日に彼女は立派に演奏してくれた。それがとても嬉しくてこの感動を他の人にも知ってもらいたくてこの道を進む事を決意したのよ」
「そうだったのですか~」
生徒達が感動します。
「さ、思い出話はこれくらいにして!次のコンクールも近いし、あなた達もパート練習しっかりね」
「は~い」
生徒達は元気よく答えると教室を出ていった。
一人を覗いて。
「おねえちゃん」
残った一人が聞いてきました。
「湊?どうしたの?」
「うん・・・あたし今も上手じゃないけど、昔の今よりもっと下手なあたしに教えるの苦労じゃなかった・・・?」
湊は申し訳なさそうに言いました。
あたしは目をしばたたかせました。
「苦労なんて思うわけないじゃない。じゃなきゃ今のこの仕事やってないよ。まして大切な妹が興味持ってくれたんだもん。あたしは苦労なんて思うどころか、嬉しかったよ」
「おねえちゃん・・・そう言ってもらえてあたしとても嬉しいよ。これからもよろしくね」
「悩み事があるならいつでも来なさい。あたしは湊と血は繋がっていないけどたった一人の姉妹なんだから」
「うん!それじゃああたしもパート練習行ってくるね」
「頑張ってきなさいね~」
あたしは湊を送り出しました。
あたしは卒業した後、純さんが進んだ大学に進み、教職免許をとったのでした。
純さんも教員は一つの選択肢として考えていたようで、あたしが入学して、教員になる事を告げると、純さんも教職になる道を固めたのでした。
そして一年前、純さんがあたし達の母校の円山学園の音楽教員になり、あたしも一年後にやはり円山学園に就職したのでした。
新開地先生はあたし達が卒業した後も、何度かコンクールで入賞し、あたしと入れ違いで別のお仕事をする事になったようです。
そして純さんが顧問、あたしが副顧問として部を支えていく事になったのでした。
新開地先生のように部がたくさん賞取れるような指導をしていくのは難しいですが、少しづつでも新開地先生のような指導ができるよう、頑張っていきたいと思っております。
これが今のあたしの立場。
純さんと一緒に、いつか新開地先生のような指導ができるようになりたいです。
Fin