【復刻SS】海老原みなせ第2弾
- 2016/12/15
- 20:57
学園からの帰り道。
あたしは久しぶりにセンパイと一緒に帰っていました。
あたしの名前は海老原みなせ。
円山学園のブラスバンド部に所属しています。
そしてあたしの隣を歩くセンパイはブラスバンド部の部長であり、あたしの彼氏です。
この人、部長で忙しいはずなのにかなりのおせっかい焼き。
この人のおせっかいは押し付けられたら最後、受け取り拒否はできません。
でもそんなおせっかい焼きのセンパイを、あたしは好きになったのでした。
でもやっぱり最近はいろいろあるようで、あまり一緒にいられませんでした。
ですが今日は久しぶりに一緒に下校することができました。
あ~んな事や、こ~んな事。
いろいろ久しぶりに話したいな~
「知ってます?駅前に新しくできたクレープ屋さんとってもおいしいって評判なんですよ。今度食べに行きません?」
「そうだな」
やった!先輩とクレープ食べに行ける!
あたしはセンパイとクレープを食べに行く光景を妄想・・・もとい想像します。
センパイがいちご味のクレープを買って・・・
あたしがチョコ味のクレープを買って・・・
あたしがいちご味のクレープも食べたいなぁと思っていると・・・
センパイは恥ずかしがりながらも一口食べるか?って聞いてくれて・・・そして・・・
ん~これこそ恋人達のスキンシップですよね~
あたしはさらに話を続けます。
「それから~パッキーの新しい味のが出たんですよ~それがまたおいしくて」
「そうだな」
・・・あれ?センパイなんで新発売のパッキーの事知ってるんだろう・・・
新発売のパッキー食べたのかな・・・?
というかさっきから『そうだな』しか言ってなくない?
そう思ったあたしはちょっと試してみることにしました。
「センパイは健太郎センパイと芦屋センパイのどっちが好きですか?」
「そうだな」
・・・
どうもセンパイは上の空で適当に答えているみたい。
彼女と久しぶりに帰っているのにこれはないんじゃないかな!
「ちょっと、センパイ!」
「ん?ああ、どうした?」
「どうした?じゃありませんよ!久しぶりに一緒に帰ってるってのに!」
「ああ、わりぃ、わりぃ」
「はぁ。センパイ・・・何考えてたんですか?何か悩みがあるんでしたらあたしでよければ相談に乗りますよ」
あたしはため息をつき、ジト目でセンパイを見ます。
「う~ん」
センパイは考え込みます。
やっぱり何か悩みがあるみたい。
「遠慮しないでいいですよ?アタシの悩みはセンパイの物、センパイの悩みはセンパイの物ですが、たまには悩み事の一つくらい聞いてあげますよ?」
「おい、なんだその未来から来たネコ型ロボットがダメダメの主人公を助ける作品に出てくるガキ大将のような考え方は!」
あ、これにはツッコミ入れるんだ。
「まあともかくこの話は終わりだ。考え事していたのは謝るから」
「ええ~教えてくださいよ~」
あたしは納得できず、なんとか聞きだそうとしたら後ろから声が聞こえてきました。
「おねえちゃ~ん!」
聞き覚えのある声に反応して振り向くと妹の湊が抱きついてきました。
あたしは驚きながらも妹を抱きとめてあげます。
「こらこら、湊」
その後を追ってお父さんもやってきます。
「ほら、やっぱりおねえちゃんだったでしょ?あ・・・」
湊がセンパイに気がついたようです。
「こ、こんばんは・・・」
「こんばんは湊ちゃん。元気だった?」
「う、うん・・・あ、あの・・・」
「ん?なんだい?」
夏に初めて出会ってから何回か会う機会があった、湊とセンパイ。
まだ湊はセンパイと話すのは緊張するみたい。
でもそれは以前とは違う緊張だとあたしは確信しています。
以前はセンパイを目の敵にしていたみたいだけど、夏にあった一件で気持ちが変わったんじゃないかとあたしの女の勘が伝えているからです!
そんなことは露知らずお父さんは二人の会話を暖かく見守っています。
自分から挨拶できるようになったことに娘の成長を感じ喜んでいるのでしょう。
あたしも嬉しいことは嬉しいのだけど、相手がセンパイってのが複雑なんだよな~
そんなことを考えていると、何かをさっきまで言おうか、言わないか迷っていた湊はついに決心したみたい。
な、何を言うつもりなんだろうこの子は・・・
「あ、あのね・・・あなたの事・・・いつまでもあの呼び方じゃ呼びにくいから・・・えっと、その・・・今度からおにいちゃんって呼んでいい・・・?」
やっぱりあたしの女の勘は間違っていなかった!
これはどう考えてもセンパイに恋しちゃってるよ!
フラグってヤツを建てちゃってるよ!!
「うん、いいよ」
この人もすんなり許可しちゃったよ!
あたしという最愛の恋人が真横にいるにも関わらず!
「あ、ありがとう・・・おにいちゃん・・・」
湊も顔を赤くしちゃってるし・・・
「なぁ、みなせ」
「・・・なんですか?」
「なんだかおにいちゃんって呼ばれるの照れくさいけど、悪くないな・・・」
・・・駄目だこの人・・・
「そうだ、香住君。久しぶりにまたうちに来ないかい?」
「いやぁ、でもそんなお邪魔じゃないですか・・・?」
「前にみなせちゃんも言っていたけど、誘っているのはこちらなんだし、全然迷惑なんかじゃないよ」
「湊ちゃんもいいのかい・・・?」
「・・・うん・・・」
湊は赤くなったまま、しかしはっきりと肯定を示します。
「じゃあ・・・すみません、お言葉に甘えさせていただきます」
あたしもセンパイがうちに来てくれるのは嬉しいんだけど、湊のあの態度見ちゃうとちょっと心配だなぁ。
家で食事が終わると湊があたしとセンパイに話しかけてきた。
「おねえちゃん・・・おにいちゃん・・・一緒にテレビ見よ・・・」
今日は湊の大好きなアニメをやる日。
湊は一人で見るだろうと思っていたから、部屋でセンパイと二人きりになれると思ってたのにまさか湊が自分からセンパイを誘うなんて・・・!
センパイがこちらを見てきます。
「あ、え~と、うん、じゃあセンパイとあたしと一緒に見ようか・・・」
「うん!」
センパイは「いいのか?」と声には出さないけど、目で訴えかけてきます。
この状況でアタシがセンパイを連れ出せるわけないじゃないですかぁ・・・
食事のデザートのプリンを食べながらアニメを見るアタシ達。
「これはどんなアニメなの?」
センパイが湊に訪ねます。
「え~と・・・双子の姉妹がいて・・・名前はあぐみちゃんとみおんちゃんって言って・・・二人は魔女で・・・いろいろな人を魔法で助けるの・・・でもそれは周りには秘密で・・・」
湊がたどたどしくあらすじを説明します。
「そっか~」
センパイは笑顔で湊の説明を聞いてます。
センパイと湊はそのまま楽しそうにアニメを見ていました。
少しくらいあたしを気にしてくれてもいいのに・・・
しばらくするとアニメが終わりました。
「面白かった~やっぱりあぐみちゃん格好いい!」
「そうだね。湊ちゃんはあぐみちゃんが好きなの?」
センパイが湊に質問します。
「うん!」
湊もテンションが上がっているようで、今度は言いよどむことなく即答します。
でも急に恥ずかしくなったようで顔を赤らめます。
それでも湊も聞きたいことがあったようで、センパイに訪ねます。
「おにいちゃんは・・・気に入った子・・・いた・・・?」
「俺は・・・みおんちゃんかな。おとなしいけど、ここぞって時に活躍してたし・・・」
センパイは楽しそうに話しています。
湊もそれが嬉しいようで笑顔になります。
あたしが入り込めないでいるとセンパイが時計を見ました。
「・・・おっと、もうこんな時間か。そろそろ帰らないと・・・」
「え・・・!帰っちゃうの・・・?」
湊が残念そうな顔をします。
「うん。随分長居しっちゃったし」
「・・・うん・・・」
湊も渋々納得したようです。そして・・・
「また・・・来てくれる・・・?」
「うん。また来るよ」
センパイは優しい顔で湊にそう伝えて、
お父さんとお母さんに挨拶し、玄関に向かいます。
「あ、あたし見送ってきます」
あたしも一緒に玄関に向かいました。
センパイと再び夜の道を歩きます。
「湊ちゃん随分話せるようになったんじゃないか?」
「そーですねー」
あたしは不機嫌丸出しに答えます。
「おいおい、不機嫌になるなよ」
センパイがなだめてきます。
「怒ってません~」
「はぁ。お前湊ちゃんに嫉妬しすぎだって」
「だって、食事の後くらい二人きりになれると思ったのに・・・」
「いや、だからお前のほう向いたろう」
「確かにそうですけど、あの状況で湊の誘いを断れるわけないじゃないですか・・・」
「まあ、それは確かに・・・」
「あの子、前に言ったと思いますけど、完全にセンパイの事好きになっちゃってますね・・・」
「考えすぎだろ。あの時も言ったと思うけど俺はみなせ一筋だって。
それにもし仮に湊ちゃんが俺の事好きだとしても、湊ちゃんの好きは俺達との好きとは別のものなんじゃないか?」
「どうでしょうか・・・最初はそうでも、そのうちそれは愛情になる事も・・・」
「まあ、そんな事心配してもしょうがないだろ。それより、お前ちゃんとトランペットのメンテナンスしてるか?」
う、痛いところをつかれました。
「そ、それは・・・最近ちょっとやってませんでしたけど・・・そんな事より今は湊のことですよ!」
「お前またこないだみたいな事になるぞ。それにそんなこと言ってると、雲雀ヶ丘さんに注意されるぞ」
結局この後、湊の話はできませんでした。
ですが、それは大した問題ではありませんでした。
あたしはこの時点では気がついていませんでした。
本当のライバルは湊ではなかったということに・・・
「みなせ」
「「みなせちゃん」」
「おねえちゃん」
「「「「お誕生日おめでとう!」」」」
「みんな、ありがとう・・・!」
あたしは感動で泣きそうになってしまいました。
あたたかい家族とそして最愛の人に祝ってもらえる誕生日・・・
それはあたしが憧れていた光景でした。
今日12月15日はあたしの誕生日。
家族みんなとセンパイが今日は家で誕生日をお祝いしてくれました。
お母さんの料理はいつもおいしいけど、今日は更においしく感じました。
そして食後の後あたしはセンパイを連れて自室に行きました。
「二人っきりですね・・・」
「ああ」
「あの・・・しないんですか・・・?」
「何を?」
「女の子にそういう事言わせますか?」
「・・・流石にご家族もいることだしするわけにはいかないだろ・・・それよりもこれ」
そう言って先輩がラッピングされた物を渡してきます。
「みなせ改めて誕生日おめでとう。これ俺からのプレゼント。お前が欲しがってたCDだ。既に生産が終わっててな新品で見つけることができなかったんだけどオークションでなんとか手に入れることができた。中古で悪いんだが我慢してくれ」
「いえいえ、とんでもない。
あたしも自分で調べたんでそれくらいは知ってます。
もう大分前に生産中止になってましたからね。
そんなCDを見つけてくれてセンパイ、本当ありがとうございます。」
「そう言ってもらえると見つけたかいがあったよ。
後クリスマスだけど・・・」
その後あたしとセンパイはクリスマスイブの予定を立てました。
センパイはイブまで忙しくてデートはできないけど、イブは必ずデートに付き合ってくれることを約束してくれました。
そしてセンパイは帰っていきました。
センパイを見送った後、あたしは部屋に戻り、早速センパイからプレゼントされたCDを聴くことにしました。
ちょっといびつなラッピングを解くと、あたしが欲しいって言っていたCDのジャケットが出てきました。
そしてケースを開けると・・・
4人のとってもかわいい女の子が描かれたディスクが出てきました。
ディスクには『天神乱漫GAME DISC』と書かれています。
あたしはしばらく沈黙しました。
これは・・・どういうことなんだろう・・・
これがプレゼント・・・?
このゲームをあたしにやれという事・・・?
いや、それは多分ないだろう。
あたしも時々違うディスクを入れてケースを閉じてそのままにしてしまう事があるから、
センパイのこれもそのパターンなんだと思う。
で、でもどうしよう・・・
中身が違っていたなんて貰った物にケチをつけるみたいで言いづらいし・・・
とりあえずこのゲームをやってみようか・・・
あたしはPCを立ち上げてディスクを入れました。
そうするとインストール画面に入りました。
えっと、ここにこうやって・・・
しばらくするとインストールが終わり、ゲームが開始されました。
「え~と、スタートでいいのかな?」
あたしはゲームを始めてみます。
「うわ、いきなりキスシーン?」
あたしは少しプレイしてみる事にしました。
「はぁ」
あたしはゲームを30分ほど進めて、ため息をつきました。
なるほど、確かにキャラクターはみんなかわいい・・・
容姿はもちろん、性格も個性豊か。
ちょっと強気な性格の神様。
言動が面白い主人公の妹。
よく気の利く幼馴染。
なぜか須美ちゃんと声がそっくりのクラスメイト。
美人の担任の先生。
胸の大きい学園の生徒会長。
幼馴染のお姉さんまで・・・
あ、男の子も二人いたなぁ。
健太郎センパイに勝るとも劣らない個性的なキャラクターだったな・・・
ムービーを見た限りだとまだまだキャラクターが出てくるみたい。
男の人が夢中になってしまうのもうなずけます。
でも・・・なんでこんな物をセンパイが・・・?
これって所謂ギャルゲーってやつだよね・・・
センパイ・・・まさか・・・オタク・・・?
日曜日。
あたしは駅前のクレープ屋さんに来ていました。
ん~噂に違わぬおいしさ・・・
これはクセになっちゃいそう・・・
でもセンパイと一緒に食べたかったな・・・
そう思いながら食べていると、センパイを見かけました。
あれ?クリスマスまで忙しいんじゃなかったっけ・・・?
センパイは駅に入っていきます。
あたしもつい追いかけてしまいました。
日曜日の午前中なので電車はそこそこの混みぐあいでしたが、センパイに見つからずにすみました。
センパイが降りた駅であたしも降り、さらに少し歩くと・・・
アニメやゲームショップが並んでいるところに出ました。
「こ、こんなところがこんな近くにあったんだ・・・」
あたしは驚きました。
各々の店からはこないだプレゼントしてもらったゲームの曲や、湊が大好きなアニメの主題歌が聞こえてきます。
でも道を歩くのは湊みたいな小さな子供じゃなく、あたしと同年代かそれ以上の年の人がほとんどです。
そんな異様な光景に気をとられているとセンパイを見失いそうになってしまいました。
危ない危ない。
しばらく歩くとセンパイはビルに入っていきました。
あたしもビルに近づくと・・・
『シスターサンクチュアリ』
と書かれた大きな看板が。
そして店の窓だと思われる2階の窓には『天神乱漫コラボ中!』と書かれた紙が大きく貼られていました。
「天神乱漫ってあのゲームだよね・・・このビルに入っていったって事は・・・」
あたしはこれでセンパイがオタクだということを確信したのでした。
帰り道、アタシはショックを受けていました。
世の中には知らないほうが幸せな事ってあるんだなぁ・・・
まさか、センパイがオタクだったなんて・・・
しかもあんな店に行くためにあたしとの時間を減らしていたなんて・・・
このままじゃ彼女として自信失くしちゃうよ・・・
確かにあたしは自分に自信がないわけじゃないけど、2次元美少女相手じゃ分が悪すぎだよ・・・
今思えば湊と一緒にアニメを見てた時もとても楽しそうだったし、あの時妹のみおんちゃんが好きだって言ってたし・・・
このゲームにも佐奈っていうとってもかわいい妹キャラが出てくるし・・・
そして今日・・・シスターサンクチュアリって・・・どう考えても普通の喫茶店じゃないよね・・・あのゲームとコラボ中なんて書いてあったし・・・
「もう、あたし飽きられちゃったのかな・・・」
落ち込んで歩いていると声をかけられました。
「あれ、海老原じゃないか」
あたしが顔を上げるとそこには朝霧春奈センパイがいました。
あたしが事情を話すと春奈センパイは少し考え込みました。
「ふむ。香住がオタクねぇ」
「はい・・・」
「ん~勘違いって事はないのかい?」
「まず間違いなく・・・今までもそういった節がありましたし、今日そういうところに行ってましたし・・・」
「でも店に入ったところまで見たわけじゃないだろ?」
「それは・・・そうですけど・・・」
「まあそんな気を落とさなくてもいいんじゃないかな。ボクは海老原はとっても魅力的な女の子だと思うよ」
「でも・・・二次元キャラ相手じゃ勝てませんよ・・・」
「う~ん、そうだなぁ。一応確認だけど、香住のそういうところを知っても海老原はまだ香住のことが好きなんだね?」
「・・・はい。センパイはあたしにとって一番大切な人ですから・・・」
「よし、じゃあこんなのはどう?」
あたしは春奈センパイの秘策を聞くことにしました。
「・・・なるほど・・・」
「香住は完全に二次元にだけしか興味がなくなった、とも思えない。そこをつけば海老原にも挽回のチャンスは充分あるんじゃないかな」
「あたし、がんばってみます!ありがとうございました!」
「うん、健闘を祈ってるよ」
あたしは春奈センパイに教えてもらった方法を試すことにしました。
それはセンパイの好みを探るという物でした。
このゲームやかわいい妹キャラが出てくるゲームをやったり、例の店に一度行ってみて、どんなしぐさがセンパイの好みなのかを調べました。
そしてあっという間に約束のクリスマスイブになりました。
あたしは朝からセンパイの家を訪れました。
センパイは寝ていたので、あたしのめいっぱいの愛で起こしてあげました。
センパイは怒りましたがプレゼントをくれました。
大きな物だったので、あたしの家に一旦戻りあたしの部屋で開封します。
そうするとあの時欲しかった熊のぬいぐるみが出てきました。
あたしはお礼を言います。
そしてセンパイと家を出てデートが始まりました。
それはいつもと変わらないデートでした。
例のクレープ屋さんに行ったり、映画を見たりしました。
そして早めに夕食をとりました。
恋人と食べるケーキは今まで食べたケーキの中で一番おいしかったです。
そして再びあたしの家に戻ってきました。
今日湊たちは外食をしてくると言っていたので、今家はセンパイとあたしだけです。
センパイをあたしの部屋に案内しました。
そしてドアを閉めます。
ついに春奈センパイに教えてもらった秘策を実行に移す時だ!
「センパイ・・・今夜はちょっと趣向を変えてみませんか・・・?」
あたしが提案します。
「趣向を変える?どうするんだ?」
センパイが訪ねてきます。
「その前に、センパイ・・・あたしに隠していることありますよね・・・」
「?隠していること?」
センパイはとぼけます。
「いいんです・・・あたしはもう全部知っているんですから・・・」
「?何言っているのかさっぱりわからないぞ?」
あたしは一呼吸置き、核心に迫ります。
「センパイは・・・オタクで・・・妹萌えだったんですね・・・そんなセンパイ・・・ううん、お兄ちゃんのために・・・今夜あたしはセンパイの妹になります!」
「はぁ?ちょっと待てお前。何か誤解してないか?俺はオタクじゃないぞ?」
「センパイ・・・もういいんですよ・・・センパイはアタシがそれを知って離れるのが怖かったんですよね?だからあんなに悩んで・・・でもいいんです・・・アタシはそんな事気にしません・・・ですから・・・!」
「お、おい、本当ちょっと待て、みなせ・・・」
「・・・お願い・・・お兄ちゃん・・・あたしを・・・あたしだけを見て・・・!」
あたしがセンパイに近づいた瞬間・・・
「ただいま~」
「「あ・・・」」
湊の声が聞こえました。
家族が帰ってきてしまったようです。
一気に熱が冷めてしまいました。
その後はとてもそんなことをやる雰囲気にはなりませんでした。
センパイを送っていく帰り道。
作戦が失敗し、あたしは落ち込んでいました。
そんなあたしにセンパイが話しかけてきます。
「星がきれいな夜だな」
「そうですね・・・」
「ホワイトクリスマスじゃないけど・・・こういうクリスマスも俺は好きだな」
センパイはさっきの事について触れません。
あたしは堪らなくなって立ち止まり自分から聞いてしまいました。
「あの・・・さっきの事聞かないんですか・・・?」
センパイも立ち止まります。
「オタクだのなんだののこと?」
「はい」
「じゃあなんでみなせは俺がその・・・オタクだと思ったんだ?」
「それは・・・あんなゲームを誕生日にプレゼントしてくるし・・・何より日曜にシスターサンクチュアリなんて店に行ってたじゃないですか・・・!」
あたしはセンパイをオタクだと思った根拠を述べました。
そうするとセンパイは・・・
「・・・何言ってるんだ?俺が誰の誕生日にゲームなんて渡したんだ?お前に渡したのはCDだったはずだろ?それにそんなところに行ってないぞ」
「確かにジャケットはCDでしたけど、中身は天神乱漫っていう・・・その・・・所謂ギャルゲーってやつでしたよ?」
「え?・・・まさか、あれ中身が違ってたのか!?」
「ええ」
「ああ・・・本当すまん。あの時言ったと思うけど、これオークションで手に入れた物なんだ。それでプレゼントする当日に届いたから中身確認しないままラッピングしちまってな・・・まさか違う物が入っていたなんて・・・」
え、じゃあこれは元々センパイのじゃないって事?
いやいや、センパイはあの店に行っていたじゃないか。
「で、でもあの店にこないだの日曜日に行きましたよね?あの店このゲームとコラボ中なんて張り紙をしていましたよ。このゲームが好きだから行ったんじゃないんですか?」
「そもそもそんな店俺は知らないぞ。ここ数日間付き合えなかったのは今日のためにバイトしてたからなんだ。もちろん日曜日も含めてな。プレゼントしたあの熊のぬいぐるみ結構高かったんだぞ」
そうだ、センパイあの時の事を覚えていてくれて、熊のぬいぐるみをプレゼントしてくれたんだった・・・という事は人違い・・・?で、でも・・・!
「じゃ、じゃあ、こないだ一緒に帰った時に上の空だったのと湊と一緒にアニメ見た時に妹のみおんちゃんが好きって言っていたのは・・・」
「そりゃ話合わせるために決まっているだろう。上の空だったのは・・・あの熊のぬいぐるみとCDをあの時の手持ちだけじゃ買えなかったから、どうすれば買えるか計算してそれでバイトをどれくらい入れるかとか考えていたからだ」
あたしは絶句します。
・・・これって完全にあたしの勘違い・・・?
「じゃ、じゃあセンパイは別にオタクじゃないんですか・・・?」
あたしは改めてこの質問をします。
「そうだ。俺は別にアニメやそういうゲームに興味はない」
じゃああたしの努力は全部・・・無駄・・・?
それはそれで悲しいなぁ。
「まあ、でもそのゲームが発端だったみたいだな。その件については確認しないで渡しちまって悪かった。改めてCDはなんとかするよ。とりあえずあれは返してもらっていいか?相手もゲームディスクが無くなって困っているだろうし」
「わかりました」
「ところでさ・・・」
センパイが話を変えます。
「お前、そろそろそのセンパイって呼び方変えないか?」
「え?」
「それに・・・今夜だけは・・・お前は・・・『妹』なんだろ・・・?」
「センパイ・・・?」
「俺は・・・オタクじゃないけど・・・さっきのお兄ちゃんって呼んでもらえたのは・・・なんというか新鮮で・・・嬉しかった・・・」
・・・この人妹萌えは否定しないんだ!
あの時湊におにいちゃんって呼ばれて嬉しがってたし!
あたしは笑ってここ数日勉強した妹キャラになりきります。
「わかりました。今夜だけですからね・・・もうお兄ちゃんったら」
「みなせ・・・愛してる・・・誰よりも・・・」
「はい・・・」
あたし達は冬空の下キスをしました。
こうしてあたしの勘違いによる騒動は幕を下ろしました。
あたしはセンパイの提案通り呼び方を変えました。
でも学園では恥ずかしいので二人きりの時だけですけどね♪
こうしてあたしたちの関係はまた一歩進んだのでした。
純さん・・・大好きです・・・いつまでも一緒にいてくださいね・・・
Fin
みなせの誕生日ということでみなせのSS第2弾です。
みなせと出逢って早10年。
これから先もみなせを愛していくことをここに誓います。
皆さんにも楽しんでいただけたら幸いです。
それではまた週末にでも~
あたしは久しぶりにセンパイと一緒に帰っていました。
あたしの名前は海老原みなせ。
円山学園のブラスバンド部に所属しています。
そしてあたしの隣を歩くセンパイはブラスバンド部の部長であり、あたしの彼氏です。
この人、部長で忙しいはずなのにかなりのおせっかい焼き。
この人のおせっかいは押し付けられたら最後、受け取り拒否はできません。
でもそんなおせっかい焼きのセンパイを、あたしは好きになったのでした。
でもやっぱり最近はいろいろあるようで、あまり一緒にいられませんでした。
ですが今日は久しぶりに一緒に下校することができました。
あ~んな事や、こ~んな事。
いろいろ久しぶりに話したいな~
「知ってます?駅前に新しくできたクレープ屋さんとってもおいしいって評判なんですよ。今度食べに行きません?」
「そうだな」
やった!先輩とクレープ食べに行ける!
あたしはセンパイとクレープを食べに行く光景を妄想・・・もとい想像します。
センパイがいちご味のクレープを買って・・・
あたしがチョコ味のクレープを買って・・・
あたしがいちご味のクレープも食べたいなぁと思っていると・・・
センパイは恥ずかしがりながらも一口食べるか?って聞いてくれて・・・そして・・・
ん~これこそ恋人達のスキンシップですよね~
あたしはさらに話を続けます。
「それから~パッキーの新しい味のが出たんですよ~それがまたおいしくて」
「そうだな」
・・・あれ?センパイなんで新発売のパッキーの事知ってるんだろう・・・
新発売のパッキー食べたのかな・・・?
というかさっきから『そうだな』しか言ってなくない?
そう思ったあたしはちょっと試してみることにしました。
「センパイは健太郎センパイと芦屋センパイのどっちが好きですか?」
「そうだな」
・・・
どうもセンパイは上の空で適当に答えているみたい。
彼女と久しぶりに帰っているのにこれはないんじゃないかな!
「ちょっと、センパイ!」
「ん?ああ、どうした?」
「どうした?じゃありませんよ!久しぶりに一緒に帰ってるってのに!」
「ああ、わりぃ、わりぃ」
「はぁ。センパイ・・・何考えてたんですか?何か悩みがあるんでしたらあたしでよければ相談に乗りますよ」
あたしはため息をつき、ジト目でセンパイを見ます。
「う~ん」
センパイは考え込みます。
やっぱり何か悩みがあるみたい。
「遠慮しないでいいですよ?アタシの悩みはセンパイの物、センパイの悩みはセンパイの物ですが、たまには悩み事の一つくらい聞いてあげますよ?」
「おい、なんだその未来から来たネコ型ロボットがダメダメの主人公を助ける作品に出てくるガキ大将のような考え方は!」
あ、これにはツッコミ入れるんだ。
「まあともかくこの話は終わりだ。考え事していたのは謝るから」
「ええ~教えてくださいよ~」
あたしは納得できず、なんとか聞きだそうとしたら後ろから声が聞こえてきました。
「おねえちゃ~ん!」
聞き覚えのある声に反応して振り向くと妹の湊が抱きついてきました。
あたしは驚きながらも妹を抱きとめてあげます。
「こらこら、湊」
その後を追ってお父さんもやってきます。
「ほら、やっぱりおねえちゃんだったでしょ?あ・・・」
湊がセンパイに気がついたようです。
「こ、こんばんは・・・」
「こんばんは湊ちゃん。元気だった?」
「う、うん・・・あ、あの・・・」
「ん?なんだい?」
夏に初めて出会ってから何回か会う機会があった、湊とセンパイ。
まだ湊はセンパイと話すのは緊張するみたい。
でもそれは以前とは違う緊張だとあたしは確信しています。
以前はセンパイを目の敵にしていたみたいだけど、夏にあった一件で気持ちが変わったんじゃないかとあたしの女の勘が伝えているからです!
そんなことは露知らずお父さんは二人の会話を暖かく見守っています。
自分から挨拶できるようになったことに娘の成長を感じ喜んでいるのでしょう。
あたしも嬉しいことは嬉しいのだけど、相手がセンパイってのが複雑なんだよな~
そんなことを考えていると、何かをさっきまで言おうか、言わないか迷っていた湊はついに決心したみたい。
な、何を言うつもりなんだろうこの子は・・・
「あ、あのね・・・あなたの事・・・いつまでもあの呼び方じゃ呼びにくいから・・・えっと、その・・・今度からおにいちゃんって呼んでいい・・・?」
やっぱりあたしの女の勘は間違っていなかった!
これはどう考えてもセンパイに恋しちゃってるよ!
フラグってヤツを建てちゃってるよ!!
「うん、いいよ」
この人もすんなり許可しちゃったよ!
あたしという最愛の恋人が真横にいるにも関わらず!
「あ、ありがとう・・・おにいちゃん・・・」
湊も顔を赤くしちゃってるし・・・
「なぁ、みなせ」
「・・・なんですか?」
「なんだかおにいちゃんって呼ばれるの照れくさいけど、悪くないな・・・」
・・・駄目だこの人・・・
「そうだ、香住君。久しぶりにまたうちに来ないかい?」
「いやぁ、でもそんなお邪魔じゃないですか・・・?」
「前にみなせちゃんも言っていたけど、誘っているのはこちらなんだし、全然迷惑なんかじゃないよ」
「湊ちゃんもいいのかい・・・?」
「・・・うん・・・」
湊は赤くなったまま、しかしはっきりと肯定を示します。
「じゃあ・・・すみません、お言葉に甘えさせていただきます」
あたしもセンパイがうちに来てくれるのは嬉しいんだけど、湊のあの態度見ちゃうとちょっと心配だなぁ。
家で食事が終わると湊があたしとセンパイに話しかけてきた。
「おねえちゃん・・・おにいちゃん・・・一緒にテレビ見よ・・・」
今日は湊の大好きなアニメをやる日。
湊は一人で見るだろうと思っていたから、部屋でセンパイと二人きりになれると思ってたのにまさか湊が自分からセンパイを誘うなんて・・・!
センパイがこちらを見てきます。
「あ、え~と、うん、じゃあセンパイとあたしと一緒に見ようか・・・」
「うん!」
センパイは「いいのか?」と声には出さないけど、目で訴えかけてきます。
この状況でアタシがセンパイを連れ出せるわけないじゃないですかぁ・・・
食事のデザートのプリンを食べながらアニメを見るアタシ達。
「これはどんなアニメなの?」
センパイが湊に訪ねます。
「え~と・・・双子の姉妹がいて・・・名前はあぐみちゃんとみおんちゃんって言って・・・二人は魔女で・・・いろいろな人を魔法で助けるの・・・でもそれは周りには秘密で・・・」
湊がたどたどしくあらすじを説明します。
「そっか~」
センパイは笑顔で湊の説明を聞いてます。
センパイと湊はそのまま楽しそうにアニメを見ていました。
少しくらいあたしを気にしてくれてもいいのに・・・
しばらくするとアニメが終わりました。
「面白かった~やっぱりあぐみちゃん格好いい!」
「そうだね。湊ちゃんはあぐみちゃんが好きなの?」
センパイが湊に質問します。
「うん!」
湊もテンションが上がっているようで、今度は言いよどむことなく即答します。
でも急に恥ずかしくなったようで顔を赤らめます。
それでも湊も聞きたいことがあったようで、センパイに訪ねます。
「おにいちゃんは・・・気に入った子・・・いた・・・?」
「俺は・・・みおんちゃんかな。おとなしいけど、ここぞって時に活躍してたし・・・」
センパイは楽しそうに話しています。
湊もそれが嬉しいようで笑顔になります。
あたしが入り込めないでいるとセンパイが時計を見ました。
「・・・おっと、もうこんな時間か。そろそろ帰らないと・・・」
「え・・・!帰っちゃうの・・・?」
湊が残念そうな顔をします。
「うん。随分長居しっちゃったし」
「・・・うん・・・」
湊も渋々納得したようです。そして・・・
「また・・・来てくれる・・・?」
「うん。また来るよ」
センパイは優しい顔で湊にそう伝えて、
お父さんとお母さんに挨拶し、玄関に向かいます。
「あ、あたし見送ってきます」
あたしも一緒に玄関に向かいました。
センパイと再び夜の道を歩きます。
「湊ちゃん随分話せるようになったんじゃないか?」
「そーですねー」
あたしは不機嫌丸出しに答えます。
「おいおい、不機嫌になるなよ」
センパイがなだめてきます。
「怒ってません~」
「はぁ。お前湊ちゃんに嫉妬しすぎだって」
「だって、食事の後くらい二人きりになれると思ったのに・・・」
「いや、だからお前のほう向いたろう」
「確かにそうですけど、あの状況で湊の誘いを断れるわけないじゃないですか・・・」
「まあ、それは確かに・・・」
「あの子、前に言ったと思いますけど、完全にセンパイの事好きになっちゃってますね・・・」
「考えすぎだろ。あの時も言ったと思うけど俺はみなせ一筋だって。
それにもし仮に湊ちゃんが俺の事好きだとしても、湊ちゃんの好きは俺達との好きとは別のものなんじゃないか?」
「どうでしょうか・・・最初はそうでも、そのうちそれは愛情になる事も・・・」
「まあ、そんな事心配してもしょうがないだろ。それより、お前ちゃんとトランペットのメンテナンスしてるか?」
う、痛いところをつかれました。
「そ、それは・・・最近ちょっとやってませんでしたけど・・・そんな事より今は湊のことですよ!」
「お前またこないだみたいな事になるぞ。それにそんなこと言ってると、雲雀ヶ丘さんに注意されるぞ」
結局この後、湊の話はできませんでした。
ですが、それは大した問題ではありませんでした。
あたしはこの時点では気がついていませんでした。
本当のライバルは湊ではなかったということに・・・
「みなせ」
「「みなせちゃん」」
「おねえちゃん」
「「「「お誕生日おめでとう!」」」」
「みんな、ありがとう・・・!」
あたしは感動で泣きそうになってしまいました。
あたたかい家族とそして最愛の人に祝ってもらえる誕生日・・・
それはあたしが憧れていた光景でした。
今日12月15日はあたしの誕生日。
家族みんなとセンパイが今日は家で誕生日をお祝いしてくれました。
お母さんの料理はいつもおいしいけど、今日は更においしく感じました。
そして食後の後あたしはセンパイを連れて自室に行きました。
「二人っきりですね・・・」
「ああ」
「あの・・・しないんですか・・・?」
「何を?」
「女の子にそういう事言わせますか?」
「・・・流石にご家族もいることだしするわけにはいかないだろ・・・それよりもこれ」
そう言って先輩がラッピングされた物を渡してきます。
「みなせ改めて誕生日おめでとう。これ俺からのプレゼント。お前が欲しがってたCDだ。既に生産が終わっててな新品で見つけることができなかったんだけどオークションでなんとか手に入れることができた。中古で悪いんだが我慢してくれ」
「いえいえ、とんでもない。
あたしも自分で調べたんでそれくらいは知ってます。
もう大分前に生産中止になってましたからね。
そんなCDを見つけてくれてセンパイ、本当ありがとうございます。」
「そう言ってもらえると見つけたかいがあったよ。
後クリスマスだけど・・・」
その後あたしとセンパイはクリスマスイブの予定を立てました。
センパイはイブまで忙しくてデートはできないけど、イブは必ずデートに付き合ってくれることを約束してくれました。
そしてセンパイは帰っていきました。
センパイを見送った後、あたしは部屋に戻り、早速センパイからプレゼントされたCDを聴くことにしました。
ちょっといびつなラッピングを解くと、あたしが欲しいって言っていたCDのジャケットが出てきました。
そしてケースを開けると・・・
4人のとってもかわいい女の子が描かれたディスクが出てきました。
ディスクには『天神乱漫GAME DISC』と書かれています。
あたしはしばらく沈黙しました。
これは・・・どういうことなんだろう・・・
これがプレゼント・・・?
このゲームをあたしにやれという事・・・?
いや、それは多分ないだろう。
あたしも時々違うディスクを入れてケースを閉じてそのままにしてしまう事があるから、
センパイのこれもそのパターンなんだと思う。
で、でもどうしよう・・・
中身が違っていたなんて貰った物にケチをつけるみたいで言いづらいし・・・
とりあえずこのゲームをやってみようか・・・
あたしはPCを立ち上げてディスクを入れました。
そうするとインストール画面に入りました。
えっと、ここにこうやって・・・
しばらくするとインストールが終わり、ゲームが開始されました。
「え~と、スタートでいいのかな?」
あたしはゲームを始めてみます。
「うわ、いきなりキスシーン?」
あたしは少しプレイしてみる事にしました。
「はぁ」
あたしはゲームを30分ほど進めて、ため息をつきました。
なるほど、確かにキャラクターはみんなかわいい・・・
容姿はもちろん、性格も個性豊か。
ちょっと強気な性格の神様。
言動が面白い主人公の妹。
よく気の利く幼馴染。
なぜか須美ちゃんと声がそっくりのクラスメイト。
美人の担任の先生。
胸の大きい学園の生徒会長。
幼馴染のお姉さんまで・・・
あ、男の子も二人いたなぁ。
健太郎センパイに勝るとも劣らない個性的なキャラクターだったな・・・
ムービーを見た限りだとまだまだキャラクターが出てくるみたい。
男の人が夢中になってしまうのもうなずけます。
でも・・・なんでこんな物をセンパイが・・・?
これって所謂ギャルゲーってやつだよね・・・
センパイ・・・まさか・・・オタク・・・?
日曜日。
あたしは駅前のクレープ屋さんに来ていました。
ん~噂に違わぬおいしさ・・・
これはクセになっちゃいそう・・・
でもセンパイと一緒に食べたかったな・・・
そう思いながら食べていると、センパイを見かけました。
あれ?クリスマスまで忙しいんじゃなかったっけ・・・?
センパイは駅に入っていきます。
あたしもつい追いかけてしまいました。
日曜日の午前中なので電車はそこそこの混みぐあいでしたが、センパイに見つからずにすみました。
センパイが降りた駅であたしも降り、さらに少し歩くと・・・
アニメやゲームショップが並んでいるところに出ました。
「こ、こんなところがこんな近くにあったんだ・・・」
あたしは驚きました。
各々の店からはこないだプレゼントしてもらったゲームの曲や、湊が大好きなアニメの主題歌が聞こえてきます。
でも道を歩くのは湊みたいな小さな子供じゃなく、あたしと同年代かそれ以上の年の人がほとんどです。
そんな異様な光景に気をとられているとセンパイを見失いそうになってしまいました。
危ない危ない。
しばらく歩くとセンパイはビルに入っていきました。
あたしもビルに近づくと・・・
『シスターサンクチュアリ』
と書かれた大きな看板が。
そして店の窓だと思われる2階の窓には『天神乱漫コラボ中!』と書かれた紙が大きく貼られていました。
「天神乱漫ってあのゲームだよね・・・このビルに入っていったって事は・・・」
あたしはこれでセンパイがオタクだということを確信したのでした。
帰り道、アタシはショックを受けていました。
世の中には知らないほうが幸せな事ってあるんだなぁ・・・
まさか、センパイがオタクだったなんて・・・
しかもあんな店に行くためにあたしとの時間を減らしていたなんて・・・
このままじゃ彼女として自信失くしちゃうよ・・・
確かにあたしは自分に自信がないわけじゃないけど、2次元美少女相手じゃ分が悪すぎだよ・・・
今思えば湊と一緒にアニメを見てた時もとても楽しそうだったし、あの時妹のみおんちゃんが好きだって言ってたし・・・
このゲームにも佐奈っていうとってもかわいい妹キャラが出てくるし・・・
そして今日・・・シスターサンクチュアリって・・・どう考えても普通の喫茶店じゃないよね・・・あのゲームとコラボ中なんて書いてあったし・・・
「もう、あたし飽きられちゃったのかな・・・」
落ち込んで歩いていると声をかけられました。
「あれ、海老原じゃないか」
あたしが顔を上げるとそこには朝霧春奈センパイがいました。
あたしが事情を話すと春奈センパイは少し考え込みました。
「ふむ。香住がオタクねぇ」
「はい・・・」
「ん~勘違いって事はないのかい?」
「まず間違いなく・・・今までもそういった節がありましたし、今日そういうところに行ってましたし・・・」
「でも店に入ったところまで見たわけじゃないだろ?」
「それは・・・そうですけど・・・」
「まあそんな気を落とさなくてもいいんじゃないかな。ボクは海老原はとっても魅力的な女の子だと思うよ」
「でも・・・二次元キャラ相手じゃ勝てませんよ・・・」
「う~ん、そうだなぁ。一応確認だけど、香住のそういうところを知っても海老原はまだ香住のことが好きなんだね?」
「・・・はい。センパイはあたしにとって一番大切な人ですから・・・」
「よし、じゃあこんなのはどう?」
あたしは春奈センパイの秘策を聞くことにしました。
「・・・なるほど・・・」
「香住は完全に二次元にだけしか興味がなくなった、とも思えない。そこをつけば海老原にも挽回のチャンスは充分あるんじゃないかな」
「あたし、がんばってみます!ありがとうございました!」
「うん、健闘を祈ってるよ」
あたしは春奈センパイに教えてもらった方法を試すことにしました。
それはセンパイの好みを探るという物でした。
このゲームやかわいい妹キャラが出てくるゲームをやったり、例の店に一度行ってみて、どんなしぐさがセンパイの好みなのかを調べました。
そしてあっという間に約束のクリスマスイブになりました。
あたしは朝からセンパイの家を訪れました。
センパイは寝ていたので、あたしのめいっぱいの愛で起こしてあげました。
センパイは怒りましたがプレゼントをくれました。
大きな物だったので、あたしの家に一旦戻りあたしの部屋で開封します。
そうするとあの時欲しかった熊のぬいぐるみが出てきました。
あたしはお礼を言います。
そしてセンパイと家を出てデートが始まりました。
それはいつもと変わらないデートでした。
例のクレープ屋さんに行ったり、映画を見たりしました。
そして早めに夕食をとりました。
恋人と食べるケーキは今まで食べたケーキの中で一番おいしかったです。
そして再びあたしの家に戻ってきました。
今日湊たちは外食をしてくると言っていたので、今家はセンパイとあたしだけです。
センパイをあたしの部屋に案内しました。
そしてドアを閉めます。
ついに春奈センパイに教えてもらった秘策を実行に移す時だ!
「センパイ・・・今夜はちょっと趣向を変えてみませんか・・・?」
あたしが提案します。
「趣向を変える?どうするんだ?」
センパイが訪ねてきます。
「その前に、センパイ・・・あたしに隠していることありますよね・・・」
「?隠していること?」
センパイはとぼけます。
「いいんです・・・あたしはもう全部知っているんですから・・・」
「?何言っているのかさっぱりわからないぞ?」
あたしは一呼吸置き、核心に迫ります。
「センパイは・・・オタクで・・・妹萌えだったんですね・・・そんなセンパイ・・・ううん、お兄ちゃんのために・・・今夜あたしはセンパイの妹になります!」
「はぁ?ちょっと待てお前。何か誤解してないか?俺はオタクじゃないぞ?」
「センパイ・・・もういいんですよ・・・センパイはアタシがそれを知って離れるのが怖かったんですよね?だからあんなに悩んで・・・でもいいんです・・・アタシはそんな事気にしません・・・ですから・・・!」
「お、おい、本当ちょっと待て、みなせ・・・」
「・・・お願い・・・お兄ちゃん・・・あたしを・・・あたしだけを見て・・・!」
あたしがセンパイに近づいた瞬間・・・
「ただいま~」
「「あ・・・」」
湊の声が聞こえました。
家族が帰ってきてしまったようです。
一気に熱が冷めてしまいました。
その後はとてもそんなことをやる雰囲気にはなりませんでした。
センパイを送っていく帰り道。
作戦が失敗し、あたしは落ち込んでいました。
そんなあたしにセンパイが話しかけてきます。
「星がきれいな夜だな」
「そうですね・・・」
「ホワイトクリスマスじゃないけど・・・こういうクリスマスも俺は好きだな」
センパイはさっきの事について触れません。
あたしは堪らなくなって立ち止まり自分から聞いてしまいました。
「あの・・・さっきの事聞かないんですか・・・?」
センパイも立ち止まります。
「オタクだのなんだののこと?」
「はい」
「じゃあなんでみなせは俺がその・・・オタクだと思ったんだ?」
「それは・・・あんなゲームを誕生日にプレゼントしてくるし・・・何より日曜にシスターサンクチュアリなんて店に行ってたじゃないですか・・・!」
あたしはセンパイをオタクだと思った根拠を述べました。
そうするとセンパイは・・・
「・・・何言ってるんだ?俺が誰の誕生日にゲームなんて渡したんだ?お前に渡したのはCDだったはずだろ?それにそんなところに行ってないぞ」
「確かにジャケットはCDでしたけど、中身は天神乱漫っていう・・・その・・・所謂ギャルゲーってやつでしたよ?」
「え?・・・まさか、あれ中身が違ってたのか!?」
「ええ」
「ああ・・・本当すまん。あの時言ったと思うけど、これオークションで手に入れた物なんだ。それでプレゼントする当日に届いたから中身確認しないままラッピングしちまってな・・・まさか違う物が入っていたなんて・・・」
え、じゃあこれは元々センパイのじゃないって事?
いやいや、センパイはあの店に行っていたじゃないか。
「で、でもあの店にこないだの日曜日に行きましたよね?あの店このゲームとコラボ中なんて張り紙をしていましたよ。このゲームが好きだから行ったんじゃないんですか?」
「そもそもそんな店俺は知らないぞ。ここ数日間付き合えなかったのは今日のためにバイトしてたからなんだ。もちろん日曜日も含めてな。プレゼントしたあの熊のぬいぐるみ結構高かったんだぞ」
そうだ、センパイあの時の事を覚えていてくれて、熊のぬいぐるみをプレゼントしてくれたんだった・・・という事は人違い・・・?で、でも・・・!
「じゃ、じゃあ、こないだ一緒に帰った時に上の空だったのと湊と一緒にアニメ見た時に妹のみおんちゃんが好きって言っていたのは・・・」
「そりゃ話合わせるために決まっているだろう。上の空だったのは・・・あの熊のぬいぐるみとCDをあの時の手持ちだけじゃ買えなかったから、どうすれば買えるか計算してそれでバイトをどれくらい入れるかとか考えていたからだ」
あたしは絶句します。
・・・これって完全にあたしの勘違い・・・?
「じゃ、じゃあセンパイは別にオタクじゃないんですか・・・?」
あたしは改めてこの質問をします。
「そうだ。俺は別にアニメやそういうゲームに興味はない」
じゃああたしの努力は全部・・・無駄・・・?
それはそれで悲しいなぁ。
「まあ、でもそのゲームが発端だったみたいだな。その件については確認しないで渡しちまって悪かった。改めてCDはなんとかするよ。とりあえずあれは返してもらっていいか?相手もゲームディスクが無くなって困っているだろうし」
「わかりました」
「ところでさ・・・」
センパイが話を変えます。
「お前、そろそろそのセンパイって呼び方変えないか?」
「え?」
「それに・・・今夜だけは・・・お前は・・・『妹』なんだろ・・・?」
「センパイ・・・?」
「俺は・・・オタクじゃないけど・・・さっきのお兄ちゃんって呼んでもらえたのは・・・なんというか新鮮で・・・嬉しかった・・・」
・・・この人妹萌えは否定しないんだ!
あの時湊におにいちゃんって呼ばれて嬉しがってたし!
あたしは笑ってここ数日勉強した妹キャラになりきります。
「わかりました。今夜だけですからね・・・もうお兄ちゃんったら」
「みなせ・・・愛してる・・・誰よりも・・・」
「はい・・・」
あたし達は冬空の下キスをしました。
こうしてあたしの勘違いによる騒動は幕を下ろしました。
あたしはセンパイの提案通り呼び方を変えました。
でも学園では恥ずかしいので二人きりの時だけですけどね♪
こうしてあたしたちの関係はまた一歩進んだのでした。
純さん・・・大好きです・・・いつまでも一緒にいてくださいね・・・
Fin
みなせの誕生日ということでみなせのSS第2弾です。
みなせと出逢って早10年。
これから先もみなせを愛していくことをここに誓います。
皆さんにも楽しんでいただけたら幸いです。
それではまた週末にでも~